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真犯人はそこにいる! 著:日富美信吾 イラスト:こもわた遙華

 その日、第1転生課の課長にして、美少女精霊であるフィリアの大事なものが盗まれた。
 何かといえば、
「栄養ドリンク? しかも、ビンテージものの?」
 尋ねる志郎(しろう)に、フィリアがうなずく。かわいい。ではない。
「そうなの! シャチクタンZが効かなくなったら飲もうと思って、大事に取っておいたのに……」
 『シャチクタンZ』というのは、それを飲めば眠気と疲れが劇的に取れるという、社畜御用達の栄養ドリンクのことであり、常日頃、フィリアが愛飲しているものでもある。
「栄養ドリンクにビンテージものがあるなんて知らなかったよ」
 使用期限とか大丈夫なのだろうかと思う一方、志郎はいったい誰が盗んだのだろうと考える。
「何やら困ってるみてーだな! そういう時はこのあたい、《迷》探偵セルセラさんに任せな!」
「いやいやいや。ちょっと待ってくれ、セルセラ先輩。自分で迷探偵とか言っちゃってるのはどうなんだ?」
「かわいいだろ?」
「ああ、かわいいな」
「なっ、何言ってるんだよ、ウメっち! 照れるだろ!?」
 こんなことぐらいで照れるセルセラはチョロいなと志郎は思った。あと、照れ隠しにしっぽでバンバン背中を叩(たた)くのはやめて欲しいなとも思った。元魔王だけあって死にそうなくらい痛い。
「というわけで、ここからはあたいが仕切らせてもらうぜ! ――さて、まずはアリバイ確認からだ。ウメっち、大人しく自供した方が身のためだぜ!?」
「おい、アリバイ確認するんじゃなかったのか!? すでに犯人扱いされてるんだけど!」
「仕方ないだろ。あたいは知ってるんだ。ウメっちがフィリるんの飲んだ栄養ドリンクの空き瓶を袋に入れて、スーハーしていることをな!」
「し、志郎くん、本当なの……!?」
 フィリアが驚き、戸惑った視線を志郎に向けてくる。
「くっ、誰にもばれないように細心の注意を払っていたのに――って、そんなことしてないから!」
 誠心誠意、そんなことはしていないと説明して、フィリアにはわかってもらえた。
「あの、でも、その……栄養ドリンクの空き瓶で志郎くんが元気になるなら、わたし、我慢するわ」
「しなくていいから! そんな趣味はないから!」
 ちょっとだけ我慢してもらおうかなとか思ってしまった志郎は、どこにもいない。本当である。
「ウメっちじゃないとすると……もはや事件は迷宮入りだな」
「早すぎる! 迷探偵の名前は伊達じゃないな! ……というか、他の奴らには聞き込みをしないのか?」
「ウメっちがそんなに言うなら、するか。いくぞ、助手のウメっち!」
「いつの間に俺は助手になったんだ……?」
 というわけで、次に話を聞いたのは茉琴(まこと)だ。
「あたし? 栄養ドリンクとか、興味ないんだけど」
「よし、マコぴんはシロだな」
「早っ! ……いや、まあ、茉琴が誰かのものを盗むとかあり得ないとは俺も思うけど、もうちょっと突っ込んで聞いた方がいいんじゃないか?」
「何だよ、ウメっち。そんなにマコぴんのスリーサイズが知りたいのか?」
「……ふーん」
「おい待て茉琴! その蔑(さげす)んだ眼差(まなざ)しはやめろ! 誰もそんなこと言ってなかっただろ!?」
「じゃあ、知りたくないと?」
「……あ、あれ? 今度は何でそんな殺気を漂わせているんだ……?」
 わけがわからない。
 次に尋ねたのはレンだ。
「レンはシローがいれば、それだけで元気になれるの!」
「聞いたか、セルセラ先輩! レンは間違いなくシロだ!」
「……あたいもそう思うけど。ウメっちのテンション、おかしくないか?」
 おかしくなどない。ただレンがかわいいだけだ。
 他の職員たちにも聞いて回ったが、犯人とおぼしき人物は浮かび上がってこなかった。
「待てよ、ウメっち。最初に通報した人物が実は怪しいって、誰かが言ってたぜ?」
「誰かって誰だよ」
 志郎のツッコミはセルセラに無視された。
「つまり、怪しいのはフィリるんだぜ!」
 セルセラが、ずびしっ! とフィリアを指し示す。
「そ、そんな……わたしが犯人だったなんて。知らなかったわ!」
「ふっふっふっ、これにて一件落着! ってやつだな!」
「まったくそのとおりだな――って、そんなわけあるか! ……フィリア、セルセラ先輩の勢いに騙(だま)されたら駄目だ!」
 まったく油断も隙もない。
「じゃあ、誰が犯人だってウメっちは言うんだよ。もう誰もいねーだろ」
「そうなんだけど」
「こうなったらボールでも投げて、当たったやつが犯人でいいんじゃねーか?」
「適当すぎる!」
 と、ツッコミを入れた時だった。セルセラが剥き出しになっている腹を押さえて言った。
「うっ、腹がいてぇ……」
「顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
「何でだ。ちょっと使用期限が怪しいものを飲んだくらいなのに……おかしいぜ」
「使用期限が怪しい? まさかそれって――」
「あ、あたい、ちょっと用事を思い出したぜ! フィリるん、悪かったな! それじゃあな!」
 セルセラは行ってしまった。
「まあ、本人も謝ってたし、許してやってよ、フィリア。あ、いや、むしろ感謝しないといけないのかも」
「え、どうして?」
「栄養ドリンクは使用期限内に飲まないと駄目だって教えてくれただろ?」
「な、なるほど……?」
 一瞬うなずきかけたものの、首をかしげるフィリアだった。かわいい。ではない。
「何にしても、あれだ。俺たちは大事な仲間を失ってしまったんだな……」
「ええ、そうね――って、死んでないわよ!?」
 そうだった。
 その後しばらく、トイレから変なうめき声が聞こえてきて、いったい何なのかと噂になるのだが、それはまた別のお話である。

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