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(ライトノベル作家) 講評
講談社ラノベ文庫新人賞も第五回となり、応募総数に大きな変化は無いが、送られてくる作品の質は総じて上がっているように感じる。少なくとも今回、最終選考に残った作品はいずれも『楽しく読める』という意味で、応募作の時点で完成度は高い。…………と思っていたら、三人中、二人がデビュー済みのプロだったというオチ(笑)。
勿論、プロアマ問わずの賞である訳だから、問題は無いが、逆にプロの作品として見ると粗を感じる部分があったのも事実である。
「天翔の飛竜騎兵」は、個人的に最も私が好みのコンセプトで描かれており、世界観設定に荒削りな部分が多々見られるが、とにかく作者が書きたいものを書いている、という感じが伝わってきて好感が持てた。
レシプロ航空機が一般化し、軍事利用もされている世界で、竜に乗って竜を狩る者達の物語――いかにもジャンルとしての縛りが緩いライトノベルだからこそ成立する世界観で、だからこそ独特の空気を醸し出している。
キャラクターもしっかりと描けているが、全体的に地味で、この辺りは好みが分かれるだろう。
ただ規定枚数に収めるためか、どうも強引に話をまとめに掛かった印象があり、説明の無いまま放置された幾つかの設定のせいで、ご都合主義に見えるのが引っかかった。この点を改善(というより加筆)して刊行されることを望む。
「ダンジョン城下町運営記」は、いわゆる「なろう系」というか、端的に言えば「異世界召喚軍師もの」である。爆発的に流行し定番化したジャンルであり、主人公の特徴はチートな戦闘能力ではなく、経済(マクロなレベルのものではなくどちらかといえば商売技術)の知識である。
キャラクターは生き生きと動いており、「異世界召喚軍師もの」としては手堅く押さえられている印象がある。その一方で、世界観設定や演出等、作品のディテールに読んでいて首を傾げざるを得ない部分が幾つかあり、強引に話を進めている感があるので、そこが引っかかった。
また微妙に文章に欠落があるというか、『この世界について何もしらない読者』に対して非常に不親切なところがあって、時折、ページをめくる手を止めて前に戻らねばならないことがあった。とにかくキャラクターはしっかりと立っているし、コンセプトは面白いので、これを活かすための改稿が必要と思われる。
「呪われたやつはだいたい友達」は、現代ファンタジーもの、学園ラブコメで、とにかく無難にまとめられている。非常に読みやすく、テンポも良く、キャラクターもオーソドックスで理解し易い。ライトノベルとしては色々なポイントを押さえた作りになっている。
ただ上記の利点が逆に、作品の特徴を殺してしまっている感が強い。
主人公の特徴が途中で有名無実化されてしまい、更に『主人公特性』という言葉の強引な展開で押し切っているため、良くも悪くも、真実味が無いというか、主人公がギャルゲーをやっているだけのようにも見えてくるのが残念だった。
また、この種のライトノベルの肝とも言える、ヒロインが悪辣な部分ばかり強調されていて魅力を感じにくい。結果として主人公の行動にも疑問を覚える形になってしまっている。基本構造は王道中の王道であるし、テンポ良くすらすらと読めるので、幾つかの設定を再調整して欲しい。
以前より指摘されてきたことだが、三作品共に、ある種の『出し惜しみ』を感じる。
シリーズものの一巻を読んでいるかのような印象で、作品の特徴とも言うべき幾つかの設定が、意味深に描かれながらも、全く説明がないまま物語が終わった印象があった。
例えば映画『スター・ウォーズ』で敵幹部の一人であるダース・ベイダーが、実は主人公の父だった、という設定を、第一作の終盤で描いておいて、それ以上は何ら説明せずに放置……だった場合、客はどう感じるか。
ライトノベルにおいては、シリーズ化が前提の場合が多いが、その一方で、一巻の売れ行きが悪ければ、散々伏線を張ってもそれが回収出来ずに打ちきり、ということはままある。
続編が可能な作りになっていることは悪くはない(人気が出ればそのままシリーズ化出来るという意味で、商売としてはむしろ良いことである)が……世界観設定にしろ、人物設定にしろ、主人公達のドラマを左右するような設定が、何の説明もされずに投げ出されていたりすると、ご都合主義的に見えてしまうことも多い。
勿論、敢えて説明しないタイプの作品も存在するが、その種の作品は水面下で整合性がとれているので、読んでいても引っかかりにくい。
『出し惜しみ』を感じる作品は、設定が孤立しているというか、思いつきを並べているだけで、相互に関連していないようにも見え、作品を煮詰めていないのではないか? と思えてしまう。これは得策ではないだろう。
逆に言えば、その辺りが気になるということは、文章やキャラクター造形は比較的高いレベルであるとも言える。これらは小説に読者が入り込む為の入り口、読者と小説の間をつなぐインターフェイスなので、そこがまずければむしろ、そちらで引っかかって、『出し惜しみ』に気付くどころの話ではなくなる。 -
藤島康介(漫画家) 講評
今回はどの作品も楽しく読めました。
全体にきちんと物語を構成する力がついてきたように感じます。
メインキャラクターの立ち位置もしっかりしているのでとても読みやすくなっていました。
ただ、設定に振り回されているような印象を受ける場面がいくつか見受けられました。
未消化であったり説明不足であったり、そんなものはぶっ飛ばして気にならないぐらいまで行っていればいいのですが、設定は物語を進めるための道具であると言うのは意識されると良いのではないかと思います。
上手に嘘をつくことが物語ですので読む側を気持ちよくだませるように、それを楽しみながらできるように今後の作品にも期待します。 -
三浦 亨(㈱アニメインターナショナルカンパニー(AIC)代表取締役) 講評
今回、受賞作となった3作品はこれまでよりもレベルが高く面白く読めました。
ただ、今回に限らずですが、応募作品に共通していることの一つにアイデア先行になるあまりキャラクター処理や情景描写がおろそかになっていることが挙げられます。
結果、せっかくのアイデアも空回りしてしまいます。キャラクターの名前もフルで考えるのですから、もう少し掘り下げてみましょう。もう少し、キャラクターの生きている世界を丁寧に描写してみましょう。読者に感情移入をしてもらう入口はそこにあるのですから。
『天翔の飛竜騎兵』は文章も読み易く、最後にバタバタ感はあるもののまとまっていたと思います。私としては、このラノベらしさも大賞に推した理由の一つになっています。ただ巨竜との出会いまでに費やすページ数を思うと落ちが肩すかしなのでは。思わせぶりでいて、アイデア倒れの印象を受けてしまいます。次回作ではしっかりとした物語設定を作ることを期待しています。
『ダンジョン城下町運営記』も主人公に経済薀蓄をしゃべらせたり、現代的なアイデアで面白いところもあるのですが、主人公の特殊能力として生かしきれていないのは残念です。
「運営記」とあるのですから、もう少しスケール感があっても良いのでは。
『呪われたやつはだいたい友達』は個人的には好感を持っています。〝らしい〟のです。
キャラといい、アイデアといい、テンポといいラノベ〝らしい〟。気になるのが、キャラクターの描写やその処理です。あの方はどちらに? どんな方でした?的な疑問が読後に出てくる。そこらが改善できればもっと面白いものが書ける方だと思います。 -
猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
第5回講談社ラノベ文庫新人賞には、総数293本のご応募をいただきました。渾身の力作をご応募いただきましたすべてのみなさんに、御礼を申し上げます。
あらためて振り返ると、応募作品全体の傾向としては、講談社ラノベ文庫の基本方針である『ライトノベルの王道』をめざす作品がより目立つようになった感がありました。
昨今のライトノベル市場や、人気作品の傾向についての様々な評論や意見が巷に溢れていることは承知しておりますが、創刊以来の『魅力あるキャラクターが紡ぐ王道のエンターテイメント作品を求めたい』という編集部としての方針はいささかも変更はありません。
今回も、選考の初期過程から編集部員が直接多くの作品に目を通し、それぞれの「推し」作品を推薦するかたちで選考を進めました。その結果最終的に大賞、優秀賞、佳作とそれぞれ1作品ずつの選出となりました。
選考過程では激論が交わされつつも、総じて選考委員のみなさまとの意見集約は円滑でありました。物議を醸す作品は無かったものの、3作品それぞれに異なる特徴や個性を見いだすことが出来たと感じております。どの作品も今ライトノベルに求められるものをそれぞれの観点から捉えて消化しつつ、作品に反映させようとする配慮や工夫が伝わってきました。
また、2作品がデビューを経験しているプロの方の作品でありました。この点いろいろなご意見はあると思いますが、「講談社ラノベ文庫新人賞」が、ライトノベルの世界を目指すすべての方に門戸が開かれている証であると受け止めていただければ幸いです。個々の作品の評価につきましては、各選考委員のみなさまの選評を参考にしていただきたく思いますが、選出された作品は従来通り原則として発刊いたします。
第6回の募集はすでに始まっております。まずはご応募いただく皆さんのライトノベルへの、キャラクターへの思い入れや情熱を、思い切り作品にぶつけてください。溢れ出る気持ちといったものは無意識に読む人を動かす力を持っています。われわれ編集部も必ずやよりよい新人賞をめざし、より面白い作品を送り出すことにこれまで以上に邁進します。
次回の講談社ラノベ文庫新人賞への、皆さんの力作のご応募、こころよりお待ちしております!
2015年11月2日 講談社ラノベ文庫編集部