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(ライトノベル作家) 講評
総じて技術的には達者で読みやすい作品が多かった様に思う。
ただその分だけ個性的な作品が減った印象も強い。新人賞において、多少の問題点は、それを上回る強烈な個性があれば無視出来るが、それをあまり感じなかったのが残念とも言える。
以下、各個の講評。
『ラン・オーバー』 最終選考に残った作品の中では特に個性的だが、激しくカテゴリー・エラー。
本来、ライトノベルにおいてはカテゴリー・エラーというのは生じてはいけないというか、十代の少年少女が見て楽しめるエンタメ作品であれば良い、という大雑把な括りである筈なのだが――この作品は、恐らく大抵の人間が読んでみて気分が悪くなるだろうという意味で、エンターテイメント作品として疑問が残る。正義も救いも無く、ただひたすら陰々滅々とどす黒い。
その一方で文章力は優れており、色々な面で不愉快な主人公やヒロインの物語を、するすると読ませてしまう点は素晴らしい。
この破滅的なキャラクターと物語構成は、むしろ純文学の方面に近いのかもしれないのだが、その一方で主人公とヒロインが親密さを増す場面では、ライトノベルっぽい描写が多く、キャラクターも別人の様で、文章力が高いが故にこそ、そこに違和感が残った。
『紙透トオルの汚れなき世界』
バランス良く造られたラノベといえる。
キャラクターはよく表現されており、その上で少しひねってあるのが見事。文章も設定も標準よりも上で、癖は無いが、読みやすく、理解しやすい。
ただ、ヒロイン扱いのキャラクターが多く、イメージが分散してしまう印象が強い。誰がメインヒロインで、誰がサブヒロインなのか分からない。かといってある種のギャルゲーの様に、均等にヒロインが並んでいる、という感じでもない。
また、本来ならば話のキモである部分を、はっきり説明しないまま強引に話を閉じている為、色々と疑問が残る。全体として御都合主義的に見える部分が多々在るが、まあ、これはこの作品の味なのかもしれない。
『アフターブラック』
すごく中二病。良い点も悪い点もそこに集約される。
読みやすい文章だが、所々、引っかかる部分も。シリアスな物語の世界観に比べて、主人公の設定(モチベーション部分)が微妙に軽いというか、今一つ噛み合っていない印象が強い。
その一方で各種能力者の設定は凝っていて、割合、面白い。この手の異能力ものは、異能の根源を同じ部分に求める事が多いのだが、様々な由来の能力者が出てきて、ちゃんと使い分けた描写になっているのは良いと思う。
全体の構成としては詰め込みすぎというか、とっちらかった印象が強いのが難点か。 -
藤島康介(漫画家) 講評
『ラン・オーバー』はちゃんと完結していたところが他の作品とは違いました。
しかし私にはキャラクターの動きによって殺人にまで発展する流れが不自然に感じるのと、悪としての説得力や力強さが希薄だったのが残念に感じました。
『極光の竜殺し~誰がための翼~』はどう見ても既存作品の構造がそのまま見えてしまって評価するのが難しかったです。
『紙透トオルの汚れなき世界』は四作品の中で一番楽しく読めました。少し残念だったのはキャラクターが多すぎて誰がメインなのかわかりにくかったところと、解かれるべきナゾがきちんと消化されていなかったところでしょうか。魅力的なキャラクターを出そうとするあまり無理をしてしまったのかもしれません。
『アフターブラック』は物語要素が詰め込まれすぎて流れが悪くなっているように見受けられました。
厨二な主人公がやけに女子に対して雄弁でいい男な感じにも少し違和感を感じました。
サキュバスのくだりは好きだったので、ここの話が見たかったなと個人的には思いました。
全体に応募作という読み切り勝負なのに話がちゃんと完結していないものが多いのが気になります。
序章的なもので終わるのは物語が描ききれているとは思えないので、きちんと完結している物が読みたいです。 -
三浦 亨(㈱アニメインターナショナルカンパニー(AIC)代表取締役) 講評
『紙透トオルの汚れなき世界』
面白く読むことができました。特に前半はリズミカルで、この作者の持っている良いところが出ていると思います。文章も上手いです。ただ、後半少しダレ気味になってくるのは残念。ストーリーの練り込みが足りないのでは……
文章にスピード感もあり、キャラクターの造り込みも上手いので次作ではその辺りを課題とし取り組んでいただきたい。
この作者のショート作品読みたいなぁ……。
『アフターブラック』
アイデア造り、文章造りへの取り組みが前向きに思え好感が持てました。
世界観の大きさと主人公等の設定がアンバランスなのは惜しい。主人公の動機付けの弱さと登場人物の多さからかお話が整理されていない印象を持ってしまいます。
超能力者のアイデア等面白いところも多いのでもう少し“細マッチョ”な構成を目指してみては?
『ラン・オーバー』
ライトノベルにおいても取り扱うテーマにタブーはないと思うが、やはり期待すべき新星はエンタメであるということを考えるとこの内容にはいささか疑問が残る。
“何かを期待させる”文章力があるので最後まで読まされてしまう。テーマからして挑戦的で内容は直球勝負だ。
読んでいくと純文学か? ライトノベルか? という半端な気持ちになっていくので、むしろ剛速球を投げてくれた方がエンタメらしくなるかもしれない。 -
猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
今回の第4回より、講評を書かせていただきます。よろしくお願いいたします。
既に発表済みでありますが、第4回講談社ラノベ文庫新人賞には、総数298本のご応募をいただきました。回を重ねるごとに、ラノベ文庫として求めたい作品の傾向と、応募作品の傾向が近接しつつあると感じます。創刊時より繰り返しておりますが、「講談社ラノベ文庫」が求めていきたい作品は“ライトノベルの王道”を征く作品であります。そのことは毎月のラインナップをご覧になっていただければお分かりかと思います。王道と呼べるものに議論はありましょうが、基本的には“読んでみて憧れる、仲間になってみたい、もっと知ってみたい魅力的なキャラクター”を中心に展開される“おもしろくてためになる”作品であると考えます。
前回の講評にもありましたが、現在の状況ですと応募作品はほぼ直接ラノベ文庫の編集者の目を通って選考を重ねていっております。受賞後には原則として発刊を目指して改稿等の作業をお願いすることになりますが、その主戦力たる現場の編集者の目を既に通っている作品ですので、よりいっそう「プロとして」のレベルの作品形態に迅速に近づいていける利点が存在すると思っております。
その一方で、毎回の選考過程にて「こういった(内容の)ものがラノベといえるのか、講談社ラノベ文庫が賞を与えるにふさわしい作品ではないのではないか?」という議論が起こります。“ライトノベルの王道”を求めるとの既出の発言と矛盾するかもしれませんが、「もしかしたらこれは大きな才能なのではないか?」というものは惜しみなく評価していきたいとも考えております。その理由は、ライトノベルという分野がまだまだ発展していくことを確信しているからであります。新しい時代、新しい作品世界を切り拓くのはいつでも現時点で評価不明の「未知のちから」であるからです。
今回は大賞、優秀賞、佳作とそれぞれ1作品ずつの選出となりました。個々の作品の評価につきましては、各選考委員のみなさまの選評を参考にしていただきたく思いますが、選出された作品は原則として発刊の方向で進めていきます。
既に第5回ラノベ文庫新人賞の募集は始まっておりますが、ご応募いただく皆さんの熱い魂を思い切りぶつけてください。われわれ編集部が中心となって必ずやよりよい、より面白い作品を送り出していきます。皆さんのご応募、こころよりお待ちしております!
2014年10月2日 講談社ラノベ文庫編集部