第21回
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むらさきゆきや(作家)講評
もう文章力について論じる必要はないのかも——と思うくらい、投稿作の文章力が上がっており、読みやすくて助かっています。
創作についてのノウハウがいくらでも手に入る時代なので(取捨選択が必要ではありますが……)投稿者の技術的な差異は小さくなりました。
そのぶん、今まで以上にキャラクターやストーリーなど、面白さの部分で評価される傾向を感じています。
そういう意味で——今回の受賞作は、どちらも本当に面白かったです。
まだ荒削りな部分もありましたが、より完成度を上げて書店に並ぶのを楽しみにしております。
【佳作】
陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!
最初の印象は、癖つよめのラブストーリー。
媒体として熟成すると、変化は乏しく遅くなるものですが……まだまだライトノベルは流行の変化が早いですね。本作も〝今っぽいな〟と思わせられる一作でした。
文章力は安定感があります。視点のぶれも無いし、情報の取捨選択も適切だし、長短のリズムも良いです。書き慣れている感がありますね。
キャラクターは、現代ラブストーリーで主人公が強い——というのは、自分には新鮮でした。
一方で、主人公がヒロインに惚れた理由が伝わりにくく……説明はあるんですが、エピソードがあったほうがわかりやすかったです。
第三者(主人公)から見てもわかるほど、世話焼きなのにツンデレ——というヒロインですが、主人公に対しては素直な言動が多い印象でした。(個人的には、これだけスペックの高い主人公なら、ツンツンな彼女を解かすエピソードがあっても、と思いましたが。テンポの良さが今風ですね)
ヒロインとの仲が進展してからの甘酸っぱさは、とても熱量があって大変よかったです! ここが本作の評価を高めていますね。
(投稿作に限らず)エモーショナルなシーンを避けてしまう作品が意外と多いです。読者を照れさせなければいけないのに、作者が照れてしまってどうする——と。その点、本作は体温のある青春を丁寧に書いています。好印象でした。
【佳作】
百合にならなきゃ死ぬ
面白かったです。
掴みから強いし、飽きさせないテンポの良さと展開の意外性がありました。
主人公が良いですね。能動的だし、切れ者だし、感情的だし。
メイドさんが、ほどよくライトにしてくれています。軽くて明るくて良かったです。
文章力は高いです。とくに日常シーンでは、小気味よく退屈させない上手さがあります。一方で、アクションシーンは急ぎすぎる印象でした。
あと、プロレスの技名を書かれても、大多数の読者は何をしているかわからないです。もったいないポイントです。
ヒロインの1人が、構成的に浮いてしまっているのが気になりました。シリーズを通しては活かされるのだと思いますが、この1本のなかでもっと見せてもらえれば。アクション的な意味での貢献ではなく、メンタル的な影響が欲しかったです。
暗いテーマを明るく描いて、キャラクターもネガティブななかに逞しさがあり、総じてポジティブな印象を持ちました。読後感の良い作品です。
2025年10月10日 講談社ラノベ文庫編集部