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鏡貴也(作家)講評
総評
レベルが高い作品が多かったです。全体的にバランスも取れ、しっかり書かれていたように思います。少し前までは勢いだけはあるぜ! という作品も多かった気がするのですが、今回は地力がある方が多く、傾向が変わったような気がします。それは、小説を書く、ということ自体が、漫画や、アニメ、映画、動画と並んで、競争するのではなく、小説を書きたいから小説を書くんだ! ということに、より自覚的になってきた世界が始まった表れに感じました。エンターテインメントも多様性の時代で、それぞれの分野にきちんと熱い気持ちがあるというのは、とても心強く感じました。
黄昏マセマティカ ~アプリになった天才少女~
数学という題材で、お客さんを読む気にさせることができるのかなぁと不安になりながら読んだのですが、そんな懸念を吹っ飛ばして、楽しく最後までたどりつかせてくれました。これはすごいぞ力があるなぁと感じました。この力で、もしもわかりやすい題材を描いたらどうなるか、これからに期待しています。
世界平和のために魔王を誘拐します
いまどきのお作法をきっちり守りながら、ファンタジー的なお作法も守り、バランスが取れていたと思います。女の子主人公というのも、もしかしたら選考作では初めて読んだかも。僕自身が女の子主人公でデビューしたことを読みながら思い出しましたし、とても楽しく読めました。
双黒銃士と銀狼姫
古き良き時代のラノベ、という感じで、楽しく読めました。文章レベルが高いとなったあと、読みやすさの戦いというのがあり、読みたくない文章を、読まなければならない文章だといかに興味を持たせて見せていくのかというのが技術として求められることもあるので、その意識もあげていけたらいいのではないかと思います。
学院最強最弱の末裔と禁則使いの性転換者
読みやすい文体でした。読ませなければならない、しかし設定設定してしまう文章も、きちんと読ませやすく書くよう配慮して読む順を決めている、という部分では、一番だったと思います。安心して読めました。 -
猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長)講評
第12回講談社ラノベ文庫新人賞に、みなさんの熱い気持ちのこもった315本の作品をお送り頂きまして、誠にありがとうございました。
今回は4作品が受賞となりました。昨今のライトノベル界の潮流に沿ったものが多かったという印象とともに、それぞれの作品に、書かれたみなさんの「こだわり」「自分はこういった作品を書きたい」という強い意志が伝わってきました。
ライトノベルというジャンルで作品作りを志していく上で、流行のテーマ、流行りそうなジャンルというものを考察することは欠かせません。「次に何が来る?」「今度はいよいよ◯◯が流行りそうだ」ということに関心を抱かない書き手は、プロアマ問わず全くといっていいほど存在しないと思われます。
――でありますゆえ、あえてこの場で、未来の書き手たる覚悟を持ったみなさんにお伝えしたいことは、「流行を探す前に、自分を探して欲しい」ということです。次に「来る」ものを追うことは、ポップカルチャーの最前線たる「ライトノベル」では当然のことです。それゆえに、限りなく続く「次の波」探求を前に、書き手としての自分がどうしても書きたいことを見つけ、その上で自身が「書くべきこと」を見つけ出していただきたいと思います。
――次の波を探すなかで、波にさらわれて自分をなくす前に。
僭越ながら、次回、次々回もみなさんの技量ではなく「熱い想い」を見せていただけることを強く願っております。
2021年10月8日 講談社ラノベ文庫編集部