第11回 講談社ラノベ文庫新人賞

講 評

  • むらさきゆきや(作家)講評

    総評

    今回の応募作について。
    定型句のように使われる「レベルが高かった」という言葉ですが、今回は本当に驚くほどレベルが高かったです。
    楽しく読ませていただきました!
    どの作品も、タイトルについては、もうすこし考えていただければと思いました。何が面白いのかわからないタイトルだと、買いにくいです。
    その他の事柄については個々の項目へ。


    『錬奏技巧師見習いの備忘録』
    改変されてしまった世界と、謎を秘めた少女との物語――
    いや、私の文章力だと、この作品の雰囲気は伝えきれませんね。刊行されたら、ぜひ読者の皆様にご自身で味わっていただきたいです。
    とにかく、完成度が高いです。
    素晴らしく意欲的で挑戦的で「ライトノベルって面白いな」と思い出させてくれるライトノベルです。
    SF的な内容でありながら、現代的でもあり、ファンタジー的でもあり、自由な発想で書かれているのが好印象でした。
    SFという意味では、もうすこし人間社会がどう変化したのかを書いてもらえると、より良かったかな?

    文章は雰囲気を重視していて、内容にとてもマッチしています。
    説明が必要なところでは、可読性の高い文体を使い分けられると、もっと良いですね。
    キャラクターは、主人公に好感が持てました。ヒロインもかわいいし、個性もあると思います。会話のパターンは、もう少し増やしたいですね。
    構成としては、ほぼ問題ないんですが……
    ヒロインがかわいいので、もっと仲の良いシーンが読めると嬉しいです。
    ちょいちょい入る回想シーンが、読者によっては難解かも?
    理解できれば面白いです。
    クライマックスは、もうちょっと説得力が欲しいですね。

    面白いと思う点が一番多く、気になった点の指摘が一番少なかったです。
    間違いなく一番完成度の高い。しかも挑戦的で、それが成功している作品でした。


    『英雄と魔女の転生ラブコメ』
    異世界を救った英雄と、異世界を滅亡させかけた魔女が、現代に転生して再会――という、親しみのある材料を使った目新しい作品です。こういう安心感と新規性のバランスが取れている作品は良いですね。
    面白かったです。
    ライトなファンタジー世界観のラブコメかと思いきや、意外とハードな内容でした。
    読みごたえのあるラブコメ。ファンタジー要素のあるラブコメ……というか、ラブストーリーが読みたい方には、ぜひオススメしたいです。

    とくに文章力が優れていました。とても読みやすかったです。
    私は作品を読むとき、著者については名前も性別も年齢も経歴も何も情報をもらわずに読んでいます。先入観を持たないようにするためです。
    しかし、これを読んですぐに「新人さんではないな」と思いました(レギュレーション上は問題ありません)。
    一目でわかるくらい文章力が高かったです。
    キャラクターは、最初は主人公への好感度が微妙でしたが……それ以降は、好感の持てるキャラクターばかりで、読んでいてストレスがなかったです。
    逆に、個性という点では物足りなかったです。この作品ならではのキャラクターが欲しいですね。
    会話のパターンは、増やしましょう。
    ヒロインが毒舌を吐いて、主人公が叫んで返す……という流れは、楽だし、楽しいんですが、そればかりだと飽きます。
    ストーリーは定番を押さえていて、安心して読めました。
    盛り上がりも期待どおり。
    もっと意外性があってもいいかも?
    クライマックスのエピソードは、やや説得力が足りなかったです。ここは刊行までに修正してください。
    あと、私は面白いシーンはのめりこんで読むタイプなので、シリアスシーンをコメディで薄めるのは、もったいないと感じました。本当に感動的なシーンなので、素直に味わわせてほしかったです。


    『BLUE PIECE』
    奇病にかかった少女との出会いと別れ――という永遠のテーマを書いた作品です。
    本作は、とても面白くて、モダンな企画で、おおいに推したい気持ちもあったんですが……
    1つ大きな欠点がありました。
    「こんな細かいこと、読者は気にしないだろう」という甘さです。
    例えば、主人公が「普通に考えたらやらないだろう」という行動を取ったり。気付いて当然のことに気付かなかったり。必要な説明がなかったり。部屋に存在して当然のものが存在していなかったり。
    (あまり書くとネタバレになるので書きませんが……)
    気になって物語に集中できませんでした。
    このタイプの作品を書くなら(いや、どんな作品もですが……)説得力のない手抜きがあってはなりません。

    文章力は高いです。雰囲気に合っています。
    説明が必要なところでは、わかりやすい文章にしてもらえると、より良いですね。雰囲気系の文体で書く方には、留意していただきたいところです。
    キャラクターも良かったです。
    主人公は応援できるし、ヒロインも個性的だし。文句なしです。
    (気に入ったところを具体的に書くとネタバレになってしまうので、ボカしますが……)
    主人公が意外と上手くやるところ。
    ヒロインがぐいぐい来るところが好きです。
    ストーリーは、SF要素アリの青春ラブコメ(ラブストーリー)であり、まさに今読むべきラノベだと思います。
    欠点が解消されれば、とても面白い作品だと思います。刊行を楽しみにしています。

  • 猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長)講評

    第11回講談社ラノベ文庫新人賞に、539本もの熱意溢れる作品をお送りくださり、ありがとうございました。今回は優秀賞1作品、佳作2作品の合計3作品が選出されました。どの作品も個性的かつ力量を感じるもので、その時代の流行に目を配りつつも、書きたいものから逃げない姿勢が伝わってきました。個々の作品の詳細につきましては、選考委員のむらさきゆきや先生の選評がとてもとても素晴らしく、応募されたみなさんはもちろんのこと、今後の応募を考えているみなさんにもぜひご覧になっていただきたいと思います。

    さて、例年弊ラノベ文庫新人賞を受賞されたみなさんに必ずお伝えしていることがあります。諸般の事情により、今回はこの場をお借りして、ライトノベルを創ることに興味を持っている多くのみなさんにお話させてください。

    ――《才能》という言葉を持ち出した場合、一般的には《書く才能》《創る才能》のことを指すのではと思われるでしょうが、一番大切なのは《続ける才能》です。ともにスタートを切った仲間に一瞬先を越された、置いて行かれたと思っても、焦ったり悔しいと思う前に、まずは自分の〈武器〉を確かめ、武器を増やすことを目指していただきたい! そのためには〈素直〉に自分を見つめ、他からの意見に素直に耳をかたむけ、役に立つと思ったことを恥ずかしげもなくどんどん取り入れること――そして小さくても積み重ねを怠らず、自分の味方を、仲間を増やす行いを〈継続〉してください。ここが《続ける才能》という最高の力の根源であると考えております。

    ライトノベルというジャンルの将来には、みなさんの力は絶対不可欠であります。今後ともぜひみなさんと歩んで行きたいと考えております。次回、そのまた次回、そしてそのまた次回(以後繰り返し)……の講談社ラノベ文庫新人賞にもぜひお集まりください!

2020年11月6日  講談社ラノベ文庫編集部

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