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鏡 貴也(作家) 講評
『お前が殺した骸にも人の名前があったんだ』
派手な設定がたくさんあり、それが華やかだなぁと思いました。ただ、華やかであることが意味を持っていたかというと、作品の主題には関係のないことが多かったのが残念です。作品の主題がやはり重要で、その主題の焦点を純化できているのか、そしてそれを扱っている競合の作品が、主題に対してどれくらい強いかを確認できるようになると、文章は書けているのでより伸びるのではないかと思います。それができれば、主人公のキャラも主題に対してより立つかなと思います。
『神様のいるこの世界で 獣はヒトの夢を見る』
宗教を扱っていて、重厚な印象を受けました。しかし、扱う題材が重いだけに、宗教とはいったいなにかということがどれくらい思いめぐらされているのかがけっこう問われてしまった気がします。この主題を、誰が楽しんで読んでくれるのか、という意識も必要と思います。また主人公も途中で替わるのですが、それにユーザーがついてこられるのか、など、たくさん考慮すべき点はあって、突き詰めると、なにを書くことで、ユーザーになにが伝わるのか、というのをもっと深く考え、主題をシンプル化すると、いい作品になると思います。
『死神ネロは間違える』
楽しく読めました。死神ものは人の死を扱っているので泣きやすいのですが、ちゃんと泣けるように作られていました。あらすじも、主題を中心にきちんと書かれていて、一番感動できるシーンはあらすじに書かないなど、実力が垣間見れました。ただ、この物語を描くには尺が長すぎたようにも思えるので、短編連作で進んでいったらもっと何度も何度も泣けるように作れるのではないかと思いました。
『落第ピエロの喜劇論』
楽しく読めました。妖怪に対する著者の姿勢と距離感が気持ちよかったです。難解な設定や重厚な設定の部分も、突っ込みが入りそうだなと思える場所ではきちんとすかして逃げていて、読み手の感情をコントロールできていたように思います。恋愛のかけあいにしつこさがあったようにも思いますが、そのほうがいいと思うユーザーもいると思うので、この文体にユーザーがたくさんいるといいなーと思います。
総括
読みながら、自分が投稿者だったときの気持ちを毎度思い出しました。僕もあらすじ書いたなぁ、など(笑)で、みなさんご存知のとおり、投稿作にはあらすじをつけるのですが、これにはオチまで書くというルールがあって、原稿用紙で2枚くらいしかない尺の中、オチまで書くことになります。すると短い中に、この作品はなんなのか、というのを書くことになるのですが、その段階で、作者が、自作の主題はなんなのか、おもしろいところはどこなのか、というのがわかっているかどうかがすぐに見えてきます。だからあらすじを読んだ段階で、本編がどれくらいのレベルなのかある程度予想がつき、それが外れたことはあまりありません。
つまり、この作品は、こういうユーザーにこういうことを伝えておもしろがってもらいたいんですという、主題ってやっぱり大事なんだなぁと感じました。
そして僕自身も、主題違反をしないで作品をきちんと書いていけたらな、と、気を引き締めました。
みんな、主題をきちんと描けるように頑張ろうね! 僕も頑張ります。選考楽しかったです。ありがとうございます。
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猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
第8回講談社ラノベチャレンジカップに数多くの力作をご応募いただきましてありがとうございます。
今回で「ラノベチャレンジカップ」はひとまず終了となります。賞の創設以来8年の時が流れましたが、Web発小説がその存在感を不動のものにするなど、その間にライトノベル関連の世界はいろいろと変わってきました。
その状況下で、新たに小説という武器を手に取り、世の中に切り込んでいこうとするみなさんはどうするべきなのだろうか……やはりまずは「好き」を貫くことが一番大切なことなのではと思います。
自分自身の「好き」は流行はどうであれけっしてぶれることはありません。自身の好きを極めながら「自身の《好き》を、どういうスタイルをとれば全く知らないみなさんに喜んでもらえる形に変えていけるのだろうか」……今回の受賞作品は、どの作品も「好きを普遍化する」そんな想いを感じるものであったと思います。
各受賞作は、これまで通り、これからの改稿作業を経て出版をめざすことになりますが、
「自分の好きを、みんなの好きにする」という想いを常に持ち続けていただきたいと切に思っております。
冒頭で申し上げましたように「ラノベチャレンジカップ」は今回でひとまず終了となりますが、この8年に得た知見を活かして、「講談社ラノベ文庫新人賞」の発展につなげていきたいと考えております。
今後とも、皆さんの熱い想いがぎっしりと詰め込まれた作品――それでいてまだ出会ってもいない読者の方にも「ふうわりとした手触りでいながら、ざわっと届く」――そんな書き手としての魂、熱い想いがぎりぎりまで込められた作品の多数のご応募を、こころから願っております。
2019年6月11日 講談社ラノベ文庫編集部