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鏡 貴也(作家) 講評
3作品ともに読みやすくそれぞれに描きたいことが伝わってくる作品でした。
また「小さな話(題材)」というのが共通しており、それがいまのライトノベルの傾向なのかなと感じました。
選考に際しては題材が共通していた分、各作品のクオリティがより明確に現れたと思います。
それが今回の優秀賞と佳作の受賞作品の大きなポイントとなりました。
題材についてですが、
「小さな話」=「地味なこと」に読者の興味を惹かせるためにはその事象を深く認識し、言葉選びも数文字単位でおこなう気持ちが必要です。
3作品ともにその部分が不足していたのでそこを意識して描くともっと良い作品になると思います。
これから刊行に向けて編集の方とともによりブラッシュアップされた作品になることを期待しています。
今後応募する方たちにもお伝えしたいことなのですが、
小説家になりたいから作品を書き、プロになりたいから新人賞に応募するのですから、
読者の方に対して自分の描く世界がどう響くのか、次のページを捲りたくなるのか、を意識して書いてほしいです。
さらに受賞した作品の場合は、数多くの発売されている、これからされる無数の作品とおなじ土俵で戦うのですから、
その作品たちに勝つのだ、という気合と緊張感を持って創作に取り組んでもらえたらと思います。
各作品講評
『傀儡のマトリョーシカ Her Nesting Dolls』
語り口に対する情熱を感じました。
ただ裏を返すと「それしかない」のでバリエーションとキャラクターの書き分けができるとより良いと思います。
『Fools and smoke』
何気ないシーンをすらすらと読ます力が素晴らしいと思います。
ただその技術は諸刃の剣で読者の方がそれをどう思うか、というのを著者自身が気づきにくくなってしまいがちです。
成立しているからと安心せず「見る人がどう思うか」までを常に管理しなければいけない気がするので、
そこを頑張れるといいのではないかな、と思います。
『caNcel -2 to 3-』
3作品の中で一番読みやすく、カギカッコや地文が丁度いい塩梅の作品でした。
お題が柔らかいのはいいのですが、当たり障りのないという印象も受けます。
商業本として考えた場合、もっと強い題材選びをしなくては読者の方の興味を惹けない気がしますので、
そこを頑張れたらいいのではないかと思います。
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猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
第7回講談社ラノベチャレンジカップに、数多くの熱の入った作品をご応募いただきまして、誠にありがとうございました。選考の結果につきましては、残念ながら大賞作品を送り出すには到らなかったのですが、優秀賞2作品、佳作1作品という形となりました。
今回の受賞作もそれぞれ個性的な作品でありますが、応募作品全体の傾向をみてみると、隆盛の「Web発小説」作品とはやや異なった個性を感じる作品がより多くみられた、といった印象があります。前回の講評でも同様に述べさせていただいておりますが、現在のライトノベルを取り巻く環境のなかで、「あえて新人賞に応募する」ということを目指す際に、その時期の流行だけではなく、より「ライトノベルの本質、その奥底深く流れる変わらない本質」と同時に「何を書くことが一番著者としての自分のパフォーマンスを最大化できるのか」といった部分に、応募されたみなさんの感性が自然に向いていった結果なのだろうとも思いました。
賞に選ばれるために、昨今の流行を常に押さえておくことは必要でありますが、必ずしも絶対のものではありません。また、新人賞選考に於いて私たちが探しているものは決して「今の時点で完成された作品」ではなく「未完成であるけれど、組み上がったら世界を制覇できるかもしれない才能」であることもまた真実であります。
当たり前のことではありますが、ライトノベルというジャンルを念頭においたうえで、まずは「自分が何が好きで、何を書きたいか」「どのような仕掛けをこらせば、自分が書いたものを、この地球上の見知らぬ相手が理解してくれて、なおかつその見知らぬ相手の時間をいただいて損をさせないか」ということに思いを馳せていただきたいと思います。
適切な道のりをたどれば必ず思いは伝わる、正解といえる最短ルートは無いかも知れないけれど、伝える意志を持ち続けることが、世界のどこかにいるはずの未来の読者への誠意ある姿勢である、という信念に裏付けられて生まれた、みなさんの現時点での「最良」の作品を、次回第8回講談社ラノベチャレンジカップでも、鏡貴也先生とともにこころよりお待ちしております。
2018年4月18日 講談社ラノベ文庫編集部