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鏡 貴也(作家) 講評
『猫のいる店、猫のいた場所』
読んでいて気持ちよかったです。どうでもいい場所ですら気持ちよく読ませることができていて、うまくやれればたくさんのファンが出来るのではないでしょうか。世の中物語のバリエーションは出尽くしているので、大切なのは語り口だと昔の偉い人が言っていた記憶があり、そのファンのつく語り口はすでに備わりつつあるように思えます。特に父親の話のくだりに感動したので、ああいった短い話を連発していけたらより素晴らしい作家になるのではと期待して選びました。
『業焔の大魔導士~まだファイアーボールしか使えない魔法使いだけど異世界最強~』
とにかくわかりやすかったです。原稿用紙600枚ずっとファイアーボールを撃てば解決で、どう楽しめばいいかもわかりやすい。そのわかりやすいことをわかりやすく作るのは難しいし、それを潔くやろうという決意も大変なもので、それが出来てるの偉いなーと感心しました。しかしこれからずっと作家をやっていくのであれば、こう楽しんでねと多様に提案できる力も手に入れられれば新しいものに挑戦できるなと期待しています。
『だからオカズは選べない』
全員が食べ物という発想が新しく、おどろきました。しかし一方で食べ物である必要性や意味があまりない上に、ユーザーのよく知っているものの形で送り出されていないので、読みにくくもありました。物語作りで一番重要なのは、やりたいことを全部出したあと一度捨て、大切なものはなんだったかを純化したあと、最後に残ったものを、今度は最大限装飾して押し出せないかという作業だと思うのですが、その作業を大切に一度作り直してみるとよりおもしろくなるのではと思います。
・総評
全体的に楽しく読めました。投稿作を読むと自分が応募者だったころを思い出し、初心に返ろうと励まされます。応募したのはもう十数年前のことですが。この十数年で思ったことといえば、売れなければすぐ消えるということです。しかし安易に売れようとしたら心が保たずにやはり消えるということです。所詮人生が意味があるのかどうかわからない暇潰しだとすれば、人に受け入れられる、しかし意味のある暇潰しになる作品を、気づきになるなにかを、もっと僕は読みたいし、見たいし、自分も書けるようになりたいです。これからの応募者の方も含め、みんなで頑張りましょう! -
猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
第6回講談社ラノベチャレンジカップには、総計403本のご応募をいただき、うち3作品が受賞となりました。ご自身の渾身の自信作をお送りいただきましたすべての応募者のみなさんに、改めまして厚く御礼申し上げます。
応募作品の傾向としましては、昨今のライトノベルの状況を強く意識したと思われる作品の一方で、今の流行や売れ筋にこだわりすぎず、「ライトノベル」という言葉が指し示すものの幅広さを、いまいちど確認するべきではないかとの問いかけをいただいているような、さまざまな題材を扱った作品が目についた印象がありました。
今回の受賞3作品も、まさに上記の傾向をあらわしていると考えます。ジャンル、カテゴリーに囚われない、と言い換えてもよろしいかと思います。受賞作品は通例通り、原則として出版を前提に改稿に入っていただきます。
また、ここ数年特に「Web発小説」「キャラクター文芸」などといった形でカテゴライズされる作品群も存在感を増しているという現実があります。「ライトノベル」という言葉が完全に定着したと思われるこの10年ほどの流れを改めて確認するに、つまりは「ライトノベル」は拡大を続けて、その扱う範囲をさらに広げているのだ、と考えます。
「印象に残るキャラクターをつくり、その行動に読む人が自らを重ねたり、癒やすことのできる物語を描き出す」ことを念頭に、書くみなさんのこころが響き、読んだみなさんのこころを響かせるような、熱い想いに溢れた作品創りを目指していただきたいと思います。
次回、第7回ラノベチャレンジカップも、鏡貴也先生とラノベ文庫編集部により選考を行います。みなさんの渾身の力作、まだ見ぬ名作をお待ちしております。
2017年5月2日 講談社ラノベ文庫編集部