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竹井10日(作家) 講評
チャレンジカップとしては4回目ということで、作品群も少しこなれてきたのかな? という印象を持ちました。
このこなれた感が今後、良い方に転ぶ作品が出て来るといいなと思います。
今回は、4作品を読ませて頂いたのですが、全作品が一人称小説、ということで、書く方は書きやすいのかもしれませんが、読む方としては少し食傷気味な印象が否めませんでした。
作品を客観的に見つめた時に、『一人称表現は、その作品を表現するのに一番適したものかどうか』をちゃんと考えてから書くべきではないかと思わされる作品が多かったです。視野の狭さが際だってしまう結果になるのは、とても残念です。
ゲーム内ファンタジーもの『イー・ヘブン』は、4作品の中では一番、お話やギミックがきっちりしていたのですが、登場人物のキャラクター性が皆無で、TRPGのシナリオを読んでいるような気持ちになりました。
また、要素的にはちゃんと話を締められる要素が入っているのに、読後感が第1章が終わっただけのような印象があって、その辺り注意して書く必要はあるなと感じました。
ただ、定番とはいえギミックを表現する為の、押さえるべきポイントは押さえてあったので、読んでいる最中に破綻や疑問を感じることなく読ませる力はあり、そこは評価出来たので佳作に推させていただきました。
刀剣学園もの『隣にいつも』は、4作品の中では、何がやりたいのかが一番理解出来る作品でした。ただ、惜しむらくはそれを表現する術が拙い。図面は出来ているのに、大工が未熟で家が傾いている、という感じです。
世界観、キャラクター、エピソードの積み重ね、そういったものをちゃんと書けるようになれば、芯の部分は期待出来るのではないかと思います。
作者がまだ若い、ということもあり、編集部と協議して将来性を楽しみにする形の佳作となりました。
心理学でお悩み解決する学園もの『雛菊こころの深層心理』は、個人的に4作品の中で一番面白くなりそうな要素を秘めている作品でした。が、キャラクターの使い方が何しろ上手くなく、描くべきヒロインの悩みに割いている尺や主人公の向き合い方、追加キャラの使い方の微妙さなど気になる点が多々目に付きます。テーマを最大限に引き出すために、キャラクター達に何をさせるべきかをもっとじっくり作者が考え、作品に向き合うべきではないかと感じました。
心理学の奥深さの表現、キャラクターの活かし方を、もっとしっかり書くことが出来れば、テーマ的には一番興味深いものではあったので、化ける可能性はあると思い、その着眼点を評価しての佳作といたしました。
ドタバタコメディ『ぜんぶ死神が無能なせい』は、4作品の中では一番ヒロインが可愛いポジションにいると思いました。コメディとしては笑いの質がどうにも子供向けで評価しづらかったです。勢いはあるのですが、その勢いを活かせておらず、勢い任せに出した多数のキャラクターを全く処理出来ていない印象でした。
また、物語の構造上、ヒロインが主人公に好意を示す根拠が示せないため、描写をメインに張ることが難しく、その辺りの良さを引き出せない自縄自縛に陥っている感じが否めません。
勢いも大切なのですけれど、物語の要所要所でちゃんと落としどころを考えて、そこに落とす技量を身に付けないと、作品が意味不明になってしまいます。今回は、勢いを買っての佳作とさせていただきますが、是非、長所を伸ばし欠点を克服してより良い作品作りを頑張って下さればと思います。
今回は、4作品とも作品自体の長所と短所がハッキリしており、どれもが長所はそれなりなものの、短所が致命的なものを抱え込んだ作品で、その欠点に目を瞑ることが難しいという編集部との一致した意見で、全作品を佳作とさせていただきました。
短所を吹き飛ばすぐらいの長所を持つ作品を作るというのは一つの理想ですが、プロの人でもなかなか出来ていなかったりしますので、せめて、短所は致命的でないことが新人の皆さんにとっては、評価を下げない為に必要なことかと思います。
また、冒頭にも書きましたが、全体の応募作の中でも一人称小説がとにかく多いのですが、一人称小説はただでさえ視野が狭くなりがちな新人さんの作品において、描写などにおいて更に視野を狭くしやすい傾向にありますので、ちゃんと文章の書ける方は是非、一人称ではない小説に挑戦して下さい。
守りに入った作品ではなく、チャレンジカップなのですから、そういう挑戦的な姿勢で臨んでいただくと、選においても好感度が高く、選ぶ側にとっては嬉しく思います。
来年は、そういった挑戦作を楽しみに待っています。応募される皆さん、頑張って下さい! -
猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
第4回講談社ラノベチャレンジカップには既報通り310作品のご応募をいただきました。みなさんの熱い気持ちのこもったたくさんの作品をお送りいただきまして誠にありがとうございます。
さて前回に引き続きまして、今回の第4回も竹井10日先生をお招きしてラノベ文庫編集部とともに最終選考を行いました。
応募作品全体の傾向としまして、どの作品も「講談社ラノベ文庫」として目指したい方向性にさらに近づいているという感がありました。また一方で、竹井先生の講評にもあるとおり、作品それぞれは、全体としてまとまってはいるものの、強く印象づけられるような部分が不足しているとの感想も持ちました。
最終選考に進出した4作品にも同様の傾向がみられたことは否めません。書きながら「もういいかな……」と思っても、さらにもう一歩突っ込んで、キャラクターの魅力について、お話の読ませどころについて突き詰めてみるという姿勢が、さらに作品力をアップさせることにつながるということをしっかり認識していただきたいと思います。
話が若干飛びました――最終選考会の結論です。今回の4本の最終選考作品につきましては、よくまとまっていて「良い点」もそれぞれあります。またどの作品についても「足りていない点」が存在し、長所が欠点を遥かに凌駕している印象がない、ということで最終的に竹井先生と編集部の見解が一致しました。
上記の見解を踏まえて、これまでのチャレンジカップでは必ず大賞作品を選考しておりましたが、今回は残念ながら、すべての作品を佳作とするという結論に到りました。ですが当然、より素晴らしい作品、より大きな可能性を感じる作品は「大賞」「優秀賞」としたいという意向は全く変わっておりません。……というよりぜひ大賞作品を出したいのです!!
そして第4回にて佳作選出の4作品につきましては前3回同様、可能な限りラノベ文庫からの出版を目指します。作者の方はさらなる精進と覚悟を、読者の方には叱咤激励をよろしくお願いいたします。
第5回ラノベチャレンジカップも、第3、4回に引き続きまして竹井10日先生とラノベ文庫編集部が選考の任をつとめます。みなさんのラノベを愛する熱い魂で磨き上げた超力作をお待ちしております!!
2015年4月17日 講談社ラノベ文庫編集部