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竹井10日(作家) 講評
賞の選考というものを、生まれて初めてやらせていただきました。
フレッシュな才能に触れることが出来、自分自身も初心に返る思いで、なかなか良い経験をさせていただき、ラノベ文庫編集部さんには大変感謝しております。
また、応募者の皆さん、お疲れ様でした。作品を1つ書き上げるだけでも、勉強になると思います。その成果をしっかり見せて貰いました。
全体的な印象から言わせていただくと、文章力、ミクロな範囲でのお話、この2つは悪くなく、基礎はよく出来ているのではないかと思いました。
但し、割とアマチュアの方の作品を読んだときに抱く感想なのですが、物語全体を見たときに、この作品で読者に何を伝えたいのか、は伝わってきづらいな、という印象です。
これはよく勘違いする方がいるのですが、作品テーマがしっかりしてないとか、そういうことではないのです。
テーマなんて、別に何でもどうでもいいのです。
たとえば「俺の考えた女の子可愛い!!」「私の考えた中二病設定最高!!」とかそういうことを、如何にして楽しく読者に伝えるか、何をすれば一番伝わるのか、伝えるためにはどういう物語の組み立て方が最適なのか、そういう読者ありきの視点が不足しています。
趣味でやる範囲でなら構わないのですが、賞に応募する以上はプロを目指していると思いますので、読者がどう考えどう感じるのか、を大事に作品を作って欲しいなと思いました。これは次回以降の応募者にも求めたい部分です。
この後、受賞者は受賞作を「出版される作品」として手を入れることになると思いますが、現状では「出版される作品」としては、まだ未完成の域を出ていませんので、読者の為の作品としてきっちり仕上げてくれることを切に願います。
個々の作品について少し記します。
『僕と凛の、危険な日常。』は、読み口としては、ライトノベルというよりは、一般小説に近い印象です。
上記の全体印象について言うと、ヒロインの魅力が読者に伝わってこず、「主人公が何故だか分からないが兎に角ヒロインが好き」というところ止まりでした。主人公が感じているヒロインの魅力を読者にも伝えられるようになって欲しいなと思います。 ただ、主人公と入院している友人とのくだりは、僕は結構好きです。惜しむらくは、その一番いいなと思えた部分がサイドストーリー止まりなところです。これぐらいの密度と思いのこもった部分が全編で描かれていたら、もっと違った印象になるのではないでしょうか。
選考会議をふまえまして、作品そのものというより、作家の将来性を期待しての佳作です。
『二線級ラブストーリー』はテンション高めのラブコメですが、15年近くラブコメばかりを書いてきた身として、少し厳しく見させていただきました。
上記の全体印象について言うと、これまた女の子の魅力が伝わってきません。
主人公が楽しい奴、というのは、まあ伝わってくるのですが、ラブコメで一番重要なのは、ヒロイン達なので、そこがおろそかになっているのは、非常にいただけません。
ただ、ちょっと設定を捻ろう、とか、出来るだけ読んでいる人を飽きさせたくない、という気持ちだけは伝わってくるので、そこは評価したいところです。
なので、そこをもっと読者が喜ぶ要素に振り分けていけるようになればいいのにな、と。
軸のずれた部分を修正してくれたら、良くなる可能性もあると思いました。
こちらも、選考会議の結果、作品そのものというより、作家の可能性を期待しての佳作です。
『ドラグーンズ・メイル』は非常にオーソドックスなファンタジーで、懐かしさすら感じました。
実は普通の応募作の3~4倍の分量があったのですが、そうとは思えない軽い読み口で、さくさく読めた部分は評価出来ます。
ただ、人間は書けていないように思いました。個々のキャラクターのエピソードの掘り下げが足りず、キャラクター同士の複雑な絡みというかキャラクターの群像劇としての側面は弱いので、そこを相当しっかりさせれば、かなり違った印象を受ける作品になるかと思います。
現時点ではまだまだですが、選考会議をふまえた結果、作品自体の進化する可能性を考慮しての大賞となりました。伸びしろは充分あるので、大賞作に相応しい作品に仕上げてくれることを期待しています。
来年、第4回講談社ラノベチャレンジカップも特に何もなければ、選考委員を務めさせていただくことになっていますが、応募される方に是非、実践して欲しいことがあります。
作品を良くする為に、魂を削って下さい。
作品を面白くする為に、日常生活に必要な最低限のこと以外の全てを費やして下さい。
そして、それを心の底から楽しいと思える人こそ、賞を取るに相応しい人物だと思います。
全ては、未来の読者達の為に。
賞を取られた方々、おめでとうございます。
今回、応募下さった皆様、ありがとうございました。
次回は更に大量に削られた魂によって出来た作品を楽しみに、期待しています。 -
渡辺 協(講談社ラノベ文庫編集長) 講評
第3回講談社ラノベチャレンジカップにご応募頂き、ありがとうございました。
今回から応募規定を一部変更しまして、ページの上限を撤廃し、また下限も変更いたしました。これは第2回まで審査員をして頂いた杉井光さんの提案に応じた措置です。が、実のところ上限につきましては、ただでさえ一冊分を書くのも、けして楽な分量ではないと思っていたところで、さらに多大な分量を書き通すのは困難なのではないか、と思っておりました。しかし、編集部に届いた数多くの勢いある原稿を見て、改めて、ラノベの明日を志す皆さんの巨大な熱意をひしひしと感じました次第です。実際、今回の最終審査は3作品となりましたが、それまでの選考過程で編集部がギリギリの検討をした作品の中に、いままでの規定ページをオーバーする作品が幾つも残されていました。と同時に、今までよりも短いページ数の中に明らかに原石の輝きを宿す作品もありました。要はページ数にかかわらず才能の発揮を見たいという編集部の思いが伝わったという事だと思います。本当にありがとうございました。
最終選考は、今回からの新たな選考委員・竹井10日さんとラノベ文庫編集部により行いました。結果は、大賞1作品、佳作2作品となりました。この受賞に関しましては、講談社ラノベチャレンジカップの趣旨と前回までの評価方法に準じまして、応募作中、もっとも優れた評価の作品を大賞とし、他の2作品は可能性を高く評価して佳作受賞といたしました。受賞者の方々に心からお祝い申し上げます。
ところで、今回の大賞作品がまさに上限撤廃に準じて応募された、通常の3倍を超えるページ数の作品でした。念のために申し添えますが、ページが多いから受賞した訳ではありません。そこだけは今後の応募者の皆さまにはきちんとご理解願いたいと思います。もう一つ、申し添えますと最終選考前で惜しくも選外となった作品は、本当にギリギリのところまでは来ている、という事です。従って、編集部としては積極的に連絡を取り、もう一歩のためのお手伝いをしたいと考えています。
現在のライトノベル志望者は非常に僅差の戦いをしていると思います。次のレベルまでは誰もが、もう一歩なのです。第4回講談社ラノベチャレンジカップに向けての皆さんの健闘をお祈りします。前2回までと同様に、大賞・佳作受賞作品は可能な限りラノベ文庫での出版を目指します。従って、本当の意味で選考作品への真の評価を下すのは、読者の方々という事になります。真摯にして苛烈な評価をお願いします。
2014年3月13日 講談社ラノベ文庫編集部