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うしろの席の戦乙女(ヴァルキリー) 外伝1「銃持つ戦乙女」 著:土也王求一 イラスト:はくり

 俺の名前は南雲(なぐも)流星(りゅうせい)。現在高校2年生、歳は17。最近までごく普通の学生生活を送っていたのだが、ある日を境にこの世界に襲いかかる魔物、邪神達と戦うことになってしまった。
 今まさにそんな怪物の一匹が、俺を八つ裂きにしようと夜の学校の廊下を徘徊している。人間である俺には戦う術がない。……その時……ズン、ズンという重い音が俺の耳に入り、同時に僅かに床が震えるのを感じる。それは、大質量の物体が廊下を2足で歩いている音だ。
 その足音は、俺が隠れる教室の前で立ち止まる。
気付かれた……。そう思った俺は慌ててその場所から走り出そうとする。
 しかし――――その刹那、今まで俺が背中を付けていた壁がこちら側に向かって砕け散り、俺は飛び出してきた巨大な物体に弾き飛ばされる。
「ぐあッ!」
 まるでトラックにでも轢かれたかと錯覚するほどの強烈な体当たりを食らった俺は並べられた机を薙ぎ倒し、教室の反対側まで吹っ飛ばされる。
 そこには、真っ黒な体毛に包まれた2メートルを超える巨体、狼のような頭、常人の2倍以上の太さはある筋骨隆々な腕、肉を引き裂く為にある鋭利な爪と牙、そして鼻が捻じ曲がるかと思うほど不快な腐敗臭を漂わせる悪魔だった。ヤツの名は『屍食鬼(グール)』。
「グルル……!」
 屍食鬼は灰色の粉塵が舞う中でのそりと身体を動かし、血走った目で容赦なく剛腕を振りかざし、襲い掛かってきた。
「グオオオオオッ!!」
 襲い来る巨体を前に俺はつい、あまりの恐怖で頭を抑えうずくまった。その時……!!
「そこまでよ……流星を食べようなんてぇ、この私が許さない。今更許しを乞うても無駄だけどね。さぁーて、オ・シ・オ・キの時間よ♪」
 窓の外から、声が聞こえた。女の子だ。ゆっくりとした猫撫で声なのだが、そのトーンからは明かに気分を害して怒っているのが分かる。ヤツが俺に手を掛けようとした事がたいそう気にくわなかったようだ。それなら、もう少し早く来いよ!!
 彼女からジャキンッという甲高い金属音が聞こえる。
 そして――――轟!という鼓膜が破裂したかと思うほど馬鹿デカイ銃声音と共に窓ガラスが粉々に砕け散り、教室の中にさながら豪雨の如く銃弾の嵐が降り注ぐ。
俺はすかさず姿勢を低くして頭を腕で覆い、降りかかるガラス片や頭上を通過していく銃弾から身体を守る。
 何千何万というとても数え切れない大口径の銃弾が屍食鬼を襲い、漆黒の巨体に風穴を開けていく。
「グゥオオオオオオオッッッ!!!」
 屍食鬼は野太い声で断末魔のような雄叫びを上げる。そして瞬く間に屍食鬼の巨体は挽き肉へと変わっていき、教室の床にドサリと崩れ落ちた。
「大丈夫ぅ、流星ぃ?」
屍食鬼を撃ち倒した少女は、宙に浮いたままふわりと教室の中へと入ってくる。そして俺を背に、肉塊と化した屍食鬼の前に降り立った。
その少女の後ろ姿は、月の光が反射する美しい白銀色のツインテール、肌は白人のそれと同等の色白、俺と同じ高校の制服を着用しており、体格は少女らしく華奢だ。
そしてさらに目に入ってくるのが、右手に持った巨大な機関銃『MG42』である。全長約120センチ、∞型のドラム弾倉(マガジン)が取り付けられた小柄な少女にあまりに似つかわしくないこの黒の金属光沢を放つ物体が、屍食鬼を倒した武器だ。彼女が言うには俺のイメージから引っ張り出したこの世界の武器の形なんだそうだ。少女はまるで魔法のように機関銃を消し、俺の方に振り向いた。
「良かったぁ。ちゃぁんと流星の頭が残ってるぅ? もしもネルのだぁい好きな流星の首から上が吹き飛んでたら、どうしようかと思っちゃったぁ」
「縁起でもない事サラッと言うな……来るのが遅いぞ、ネル」
「ごめん……お茶してたの。携帯がぁバックの奥に入っちゃってて聞こえなくてさぁ。でもね、ホラぁ、ヒロインはちょっと遅れて登場するものだって言うしぃ、ネルも……にゃ」
「……それ、ヒーローの間違いだろう。っていうかそのせいで、俺はまた危うく死にかけたんだが……」
「でもこうして生きてるんだしぃ、結果オーライだよねぇ。フフ♪」
 そう言って全く場違いな笑みを崩さない少女の名は、ネル・レイテフ。
先に言っておくが、コイツは人間じゃない。どちらかと言えば、今肉塊と化した屍食鬼に近しい存在と言う説明が正しいだろう。無論彼女は敵じゃない、俺の守護神なのだ。
 もっとも今までの事態を見ても分かる通り、守護神と呼ぶにはいささか凶暴というか、現実離れしている存在なのだが、どう見ても頭のネジが外れているとしか思えない。
 それはさておき、俺は彼女達の事をこう呼んでいる。
 ――――『戦乙女(ヴァルキリー)』、と。
 今まで真っ暗だった教室に突如光が灯る。先ほど肉塊と化したと思われた化け物はどうやらまだ生きていた様だ。俺達が話している隙をみて、この空間から脱出を図ったのだ。
「おぉ? ワンちゃん達、ネルが来たのに気付いて向こうに逃げちゃったみたいだねぇ。……逃がさないんだから★」
 ネルはそう言うと、腕を前にかざす。 すると突如ネルの眼の前の空間が捻じ曲がり、ぽっかりと〝穴〟が開いてしまった。傍から見れば明らかに異常な光景であろう。そして笑顔のまま、俺に手を差し出す。
「さ、行こぅ? 流星ぇ♪」
「……はいはい」

〝穴〟を抜けた俺とネルは夜の学校から一転、夜の街に出る。
二階建ての家とそれを囲うコンクリートブロックの外溝が並ぶ、どこにでもありそうな住宅街だ. しかし、ここは完全なゴーストタウンなのだ。
 それもそのはず、ここは『位相空間』。現実世界を基に魔力で創られた、いわばもう1つの世界なのだ。さっきまでいた学校とは少し位相座標がずれている様だ。
「さあてぇ、ワンちゃん達はどこに隠れたのかしらぁ?」
 ネルが楽しそうに言う。なんで楽しそうなんだお前は。しかもあの怪物がどうしてがワンちゃんに見えるんだ?
「とにかく、この空間に逃げ込んだのは間違いないんだろ、ネル。用心して探そう――」
 俺がそう言いかけた時――――遠くの曲がり角から1体の屍食鬼が姿を現す。
相変わらずの巨体と黒毛。そいつは敵意を剥き出しにして俺達を睨み付けた。曲がり角から続けて2体、3体と次々屍食鬼が現れる。気が付けば何十体という屍食鬼の群れがどこからか現れて、1匹目の背後の道路を怪奇な骸で埋め尽くしていた。
「……マジか、ここはあいつが逃げ込んだ空間だからな……」
「うわぁー! 得物が一杯ぃー?」
 思わず青ざめる俺に対し、ネルは非常にるんるんとしている。この好戦的というか怖いもの知らずなネルの、サイコちっくな性格は、俺は全く着いていけない。
「「「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」」」
 屍食鬼の群れは雄叫びを上げ、路地に沿って凶暴な叫び声をあげて突撃してくる。
「お、おいネル!く、来るぞ!!」
「んふふ~、ネルにお・ま・か・せ★」
 瞬間、ネルの目の前に巨大な〝魔法陣〟が出現する。円形の光の中に様々な文字や図形が描かれたその図面は徐々に前方へと動き、魔法陣の軌跡に沿って「巨大な物体」が姿を現し始める。
 ――――『戦車』だ。厳密に言えば戦車の車体に対空砲が載った、第二次世界大戦時にドイツ国防軍が使用した対空戦車『ヴィルベルヴィント』である。
 ジャーマングレー一色の巨体が俺達の前に現れ、路地を隙間なく塞ぐ。
「デストロ~イ♪」
 ネルの号令と共に、砲塔に備えられた4門の20ミリ対空砲が一斉に火を吹いた。
 途端、耳を劈(つんざ)く機銃音。薄暗い住宅街を照らす発射炎(マズルフラッシュ)の閃光。そして、無残にもこま切れにされていく屍食鬼達。ヤツらは果敢に突撃を行うが、機銃が放つ弾幕の前にあっけなく倒れていく。ここまで一方的だと、むしろ健気に攻撃を行おうとする屍食鬼達にふっと同情する気持ちにもなる。
「流星ぃ~見て見てぇ~これがホントの〝ミートチョッパー〟だよ~!」
 耳を抑えようともせず、キャッキャと叫ぶネル。その悪趣味さに文句の1つも言ってやりたい所だったが、背後に殺意を感じた俺はそちらに意識が向く。俺の勘が当たった。なんと後ろからも息を殺した屍食鬼の大軍がすぐそこまで迫って来ていた。
「ネ、ネル! 後ろからも来てるぞ!」
「え~? でもこの子、前を撃ちながら後ろも撃つなんて器用なこと出来ないよぉ?」
「そんな事聞いてるんじゃねえんだよ! 何とかしろよ、早くしないと――――ッ!」
 そうこう言い合っているうちに、屍食鬼の大軍が目前に爆走して飛び込んで来た。
「ひ……っ!」
 もう駄目か。俺が一瞬そう思った時――――
『あら、どうやら間に合ったみたいね』
 どこからか声が聞こえた。 そして目の前の屍食鬼の大軍が、突如大爆発を起こす。屍食鬼の大軍の中に、〝ミサイル〟が落ちたのだ。無論『ヴィルベルヴィント』からではない。屍食鬼の大軍は戦争映画さながらの爆炎によって跡形も無く吹き飛んだ。俺はそのすぐ近くにいたのだが、ネルの張った防御結界のおかげで爆発に巻き込まれずに済んだ。次の瞬間、上空をもの凄い速さで〝戦闘機〟が飛び去った。
 微かに見えた機影は『F‐15E ストライクイーグル』。アメリカ生まれの戦闘爆撃機だ。あの機体が現れたということは、もう間違いない。
 俺がそう思った時――――上空から『ヴィルベルヴィント』の上に女性が落ちて来る。気が付けば『ヴィルベルヴィント』の機銃掃射は納まっており、戦車より前方は屍食鬼の屍の山が築かれていた。空から落ちてきた女性はネルと同じ制服を着ており、腰まである黒髪ロングストレートをカチューシャで止めている。
「もぉ~、空(くう)ってば遅いじゃん! それに大っきなの使うならそう言ってよぉ」
 空から落ちてきた女性に対し、ネルはぶぅ~と文句を言う。
「あら、ヒロインは遅れて登場するんじゃなかったかしら? それに警告しなくても、貴女はしっかり流星君を守ってくれたじゃない」
「それはそう――――って、それさっきのネルの台詞じゃん! 見てたんならもっと早く手伝ってよぉ!」
女性はネルに答えるとゆっくりと身体を起こす。彼女の名前は篠原(しのはら)空(くう)。
俺は彼女を空先輩と呼んでいる。彼女も、俺の戦乙女(ヴァルキリー)の一人だ。
「むぅ~! なにさなにさ! 空は後から来て良いトコ取りしただけじゃんかぁ!」
「ふふ。いいトコ取りは、“空で戦う者”の特権と言った所かしら?」
 ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てるネルとは対照的に、空先輩は落ち着いた口調で言う。
「さて、あの屍食鬼はもう全滅したみたいだし、私達も帰りましょうか。元の世界に」
 空先輩はそう言うと戦車から飛び降り、先程のネル同様空間に〝穴〟を開ける。
「もう……いいもん! 向こうに戻ったらたぁーくさん流星とイチャイチャするから! ホラ行こ、流星!」
「あら、このあと流星は私と作戦会議よぉ」
「お、おい……どっちの話も俺は認めないぞ」
 俺は2人の戦乙女(ヴァルキリー)に挟まれながら、いつか訪れる安息の日々を夢見るのだが……。

END

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