講談社ラノベ文庫

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アイス 著:南篠豊 イラスト:れい亜

 家のどこかで延々スマフォが鳴っている。
 草木も眠るなんとやらな時間だというのに、おかげで目が覚めてしまった。勇真の携帯ではない。そのうち止まるだろうとしばらく無視していたが、いつまでたっても鳴り止む気配がなかった。
「こんな深夜に誰のだよ、ったく……」
 勇真はぼやきながら布団から這い出て探しにいった。すると居間のテーブルにぽつんと放置されているスマフォを発見した。
 今も鳴り続けている。犯人はコイツだ。
「……これ、イスティのだな」
 わりと新しめのスマフォは、日下家の離れに籠城……訂正、居候している魔王のものとすぐに知れた。
「忘れてくなよこんな場所に……ていうか電話?」
 登録はなし。誰からだ。
 まず電話するような相手いるのかあいつ。
 なんにせよ、こんな時間にかけてくるなんてロクなやつじゃない。電源を切る前に怒鳴りつけてやるつもりで勇真は電話に出た。
「おい、誰だか知らねえけどこんな時間に……」
『もしもし。夜分にすいません、警察で』
 即切った。
 つい、思わず、反射的に。
「……えっ」
 ちょっとまってほしい。
 警察? 警察って、勇真もちょっと前までたいへんよくお世話になったりしたあの警察? あんまりお世話になりすぎて顔見知りにまでなったコワモテの地元署長がつとめてらっしゃるあの? どういうことだ。あのクソ魔王今度はなにやらかしやがった。いやそれとも自分か。自分なにやらかしやがった。
 すっかり目の冴えるような驚きに勇真が包まれていると、再びスマフォが震えだした。同じ番号からだ。おそるおそる出る。
「あっどうも……すいません、ちょっと驚いて切ってしまって……」
『ユウマ、きさまなぜ切ったあ!?』
 ん? と首をかしげる。
 たいへん聞き覚えのある声だった。具体的にはこのスマフォのまさに持ち主のソレのような――って、
「おまえイスティか!?」
『だからそうだと言っているだろう!』
 いや言ってねえよ。
 ちょっと混乱してきた。つまりいまイスティのスマフォにイスティから電話がかかってきているということか? まさか外から? 身分不確かな引きこもりの分際で何を血迷いやがったのかこのダメ魔王は。
「いったいなにしてんだよ……ただの夜更かしならともかく、警察沙汰? ってさすがにおまえ……」
『わ、我はなにもしておらん! しておらんというのに……うう……本当に、本当にまだなにもしていないのだ……」
 完全に涙声だ。ずびずびと鼻も鳴らしてるし。この魔王はどうやら勇者の息子どころか警察にまで屈してしまったらしい。

 話をできる状態ではなさそうだったので改めて警察とかわって話をし、とりあえず勇真が迎えに行くことで決着がついた。
 見た目は一応子供ということもあって保護という名目で連絡がきたらしい。家の電話ではなかったのはイスティが番号を覚えていなかったからだろう。
 まだぐずぐず泣いているイスティを連れて、勇真は警察署からの帰路につく。
「というかおまえなんで外なんかに」
「ぐすっ……あまりにも暇だったからコンビニに……」
「絵に描いたようなニートのムーヴだな」
「早くジャ○プ読みたかったし……あとアイスとか食べたくて……」
「ニートムーヴ完璧(パーフェクト)じゃねえか」
「コート着込んで帽子とマスクとサングラス装着して、ウェアラブルな引きこもりスタイルで行っただけなのに……そしたら通報されるわスマフォ忘れてるわ……うう、いったい何が悪かったのだ……」
「全部だ全部」
 むしろどうしてそれで通報されないと思うのか。
 罵倒したいこと山のごとしだったが、「おまわりコワイ……まじコワイ……」とあまりにも怯えているものだから勇真はその気が失せてしまった。
「まったく……で? アイスは買えたのか?」
「ぐすっ……買えるものか、たわけ……」
「そうかよ。じゃあどれがいい?」
「……は??」
「だからアイスだって。食いたいのを…………ってコラなんだその生まれて初めてオーロラでも見たような顔は。勘違いすんな、俺も急に食べたくなったからそのついでだ。ちょうどそこにコンビニもあるし」
「………………ジ○ンプは?」
「ほしがりか!」
 ああもう、いいよまとめて買ってやるよめんどくせえ。
 深夜の妙なテンションが災いしたのか、勇真はコンビニでいちばん高いアイスを――もちろん雪凪の分も忘れず――買ってしまった。イスティにぐだぐだ文句を言いながらアイスを食べる帰り道は、なんというか、意外と悪くなかった。

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