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闇へのいざない 著:南篠豊 イラスト:れい亜

「……は? ソシャゲ? 俺が?」
「うむ。やれ」
 うさんくさげに勇真が言うと、イスティは尊大に肯定した。
 四月、日曜の昼下がり。ちょっとした作業の合間、天気もいいので我が家の縁側でくつろいでいたところだったのだが……
「聞けばきさま、その手のものをほとんどやっていないそうではないか。スマフォを持っていながらもったいない。ゆえにやれ」
 陽光にさらした金髪金目を輝かせ、ふふんと自信ありげに笑うイスティ。
「いや……普通にやらないぞ?」
「なにゆえ!?」
「だってなんかこわいし……ソシャゲって……」
 あとおまえの根拠不明な自信と命令形もむかつくし。
「ええい、きさまそれでも現代人か! うら若き学生か!」
「おまえはそれでも元異世界の魔王かよ」
「失敬な! 今も魔王である! きさまみたいな時間だけあって金のない若者は、どいつもこいつも『基本プレイ無料』の看板に踊らされて朝夕の電車でぽちぽちぽちぽちやっているものだろう!?」
「時間だけあって金のない引きこもりが見てきたように言いやがるな」
「大体こわいとはなんだこわいとは! 子供か! きさまのツラの方がよほど――あっちがう。まちがった。まちがったからそのお顔やめてくれません?」
 へーこら下手に行きはじめる。プライドねえのか。
「つーか、なんで急にそんな話になるんだよ」
「う……その、じつはですね?」
 イスティが白状するところによれば。
 なんでもいまやっているソシャゲがなんとかいうキャンペーン中で、新規プレイヤーを招待すると無料で何連ガチャが引けてうんちゃらかんちゃら――なのだそうだ。ようするに広告戦略の一環だろう。よく聞く話だ。
「で? SNSやらでつながってる相手はほとんど既存プレイヤーっぽいから、俺に声をかけたと。なるほどなるほど」
「うへへへ、そういうわけでして……」
 揉み手しながら顔色をうかがってくる。カミエラがこの姿を見たらいったいどう思うだろうなあと勇真はふと思った。
「まあ関係ないけどな。どっちにしろやらないし」
「じゃあなんで話させた!? 聞いただけか!」
「うん」
「このっ……返せ! 我の期待返せ!」
 知るか。期待するほうが悪い。
 ごちゃごちゃうるさいのを無視して、勇真はごろりと縁側の座布団に寝転んだ。
「諦めて他あたってくれ。まあなんだ、外に出て声かければ一人くらい釣れるかもかもしれるんじゃないか? あの不審者みたいな格好のおまえになびいてくれるお人好しがいるかは知らんけど」
「この、人の足元見おって……! それができれば苦労せんというに!」
「あっははは。だよなあ」
「うぬう……しかたない。ユキナはさっき釣れたし、今回はそれで我慢するか……」
「おいさっさと招待送れクソ魔王。ゲーム始められねえだろうが」
「……ん? んん!?」
 ちょっと間を置いてイスティはぎょっとした。何が不思議なのやら。
「えっきさま手の平返しすさまじくない……!?」
「たりまえだろうが雪凪が始めてんだぞ? つーかそれ先に言え!」
「逆ギレはなはだしいぞこのチンピラ兄貴……」


 で、結局始めることになった。
 ついでに雪凪も手が空いているようだったのでイスティが居間に呼び、チュートリアルがてら三人でプレイすることに。
「ちなみに、雪凪はどれくらい進めてるんだ? 俺さっきインストールしたばっかなんだけど」
「おんなじ、くらい……」
 ためらいがちに雪凪は答える。
「そっか。じゃあせっかくだし、一緒に進めてこうな」
「う、ん」
 がんばる、と小さく拳を握る。この妹かわいいなおい。
「それでイスティ、とりあえずチュートリアルしてこうと思うけど、それ以外で最初にしておいた方がいいことってあったりするのか?」
「リセマラ」
「身も蓋もねえな!?」
「りせ、まら……?」
 首をかしげる雪凪。知らないらしい。
 リセマラというのは『リセットマラソン』の略だ。基本プレイ無料をうたうこの手のスマフォゲームはたいてい有料ガチャがあり、同時にプレイ開始時にそれをタダで回せるタイミングがある。そこで良いキャラクターなりアイテムなりを引けるまでアンインストールと再インストール……つまりリセットを繰り返すことを俗にリセマラという。
 ソシャゲには疎い勇真だったがなぜかその単語については知っていた。誰かに聞いた気がするのだが……誰だったっけ?
「今時リセマラなど基本中の基本だぞ? 時間だけはあるのが我らの強みだ。有効活用せんでどうする」
「有効活用かあ……?」
 なんだか釈然とせず首をひねる。
「どうする雪凪。するか? リセマラ」
「ん……私は、そこまで、こだわらなくても……」
「じゃあ俺もいいや。普通に進めてくか」
 意見一致。のんびりやっていこう。
 だがそうと決めた勇真たちをイスティは嘲笑った。
「はっはっは! バカめ、ひとつ妥協したな? その妥協がやがて大きな後悔になるとも知らず愚かなことだ! 欲しいキャラや突破できないクエストが出てきてからでは遅いというのに――」
「あっなんか金色に光った」
「私、も……」
「なにいーーーーーー!?」
 話もそこそこに進めていって始まった初回ガチャで、なにやらぴかーっと派手な演出が入った。どうやら『アタリ』だったらしく、演出に劣らずハデハデしいキャラクターがぽんと飛び出してきた。
「ん? 雪凪のそれ、俺のと同じキャラじゃないか?」
「ほんと、だ……かわいい……」
「な……なぁ……っ!?」
 で、その隣でイスティはわなわなと絶句している。
「現環境最強キャラを一発だと……? そいつがいなければまずゲームが始まらんとすら言われているぶっ壊れ……我まだ引いていないのに……」
「へーラッキー。よかったなあ雪凪」
 ノリでいえーいとハイタッチを求めると「ぃ、ぇーい……」ととても控えめながら応えてくれた。嬉しい。
「ぬぐぐぐ、そろいもそろってトンデモビギナーズラックを……なんだきさまら!? 仲良し兄妹か!」
「そ、そうか? ひとに言われるとなんか照れるな……」
「褒めとらんわ! くそう見ておれ、この流れなら我だって!」
 そう言ってイスティもガチャを回し始める。勇真と雪凪を招待した特典でけっこうな数を回せるようだが……
「えーと、銀、銀、銀、銀……全部銀。これってアタリ? ハズレ?」
「同じの、出なかっ、た……」
「ぬがーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
 断末魔の声をあげてばたりと倒れるイスティ。大ハズレだったらしい。そして「なんで我だけ……やだ……もう死にたい……」なんてめそめそと顔を覆って泣きはじめる始末だ。そこまでショックか。さすがに気の毒になってくる。
「な、泣くなよイスティ……ほら、そのうちいいことあるって。な?」
「う……元気出して、まおちゃん……」
「…………」
 励まそうとすると、無言でぷいとそっぽを向いて寝転んでしまう。
 まためんどくせえへこみ方しやがって。
 しかし放っておくと余計にめんどくさくなる予感しかしない。
「で、でもほら、偶然引いたはいいけど俺ら初心者だしな? このキャラの上手な使い方とか全然わかんないっていうか」
「教えて、もらわないと……」
「そう! それ!」
 これ幸いと勇真は乗っかっていく。雪凪ナイスフォロー。
「このゲームの先輩で、できれば上級者な誰かの知識が必要なわけだよ! どこかにいないかなあ、そういうの上手なひと! いないかなーーーーー!?」
「………………」
 辛抱強くちらちら視線を送ってやると、カタツムリのように寝転んでいたイスティはおもむろにむくりと起き上がり、
「……しょーーーーがないのーーー! これだからビギナーは!」
 しかたなく、しかたなくな? という空気を出しながらもまんざらでもなさそうなドヤ顔で復活した。ちょっろい。
「いいだろう! そこまで言うなら我がきさまらに手取り足取り――」
「うっす。集まって何やってんのあんたら」
 と、そんなタイミングでやってきたのは余多奏多だ。
「よう奏多。……あれ、なんか今日来る用事あったっけ?」
「うざ。暇だから来ただけだし」
「さいですか……」
 堂々としてんなあ。
 というかあたりまえのように庭から縁側に上がってくつろぎ始めたけど、こいつに玄関という概念はないのか。我が家気分か。
「で何やってんの。……ソシャゲ?」
「おう。イスティに誘われて雪凪と二人で始めてな。なんならおまえもやるか?」
「……まあいいけど。ただ今はスタミナ回復待ちよ?」
「スタミナ……ってまさか、きさまこのゲームやっておるのか。それでは我が勧誘できんではないか、帰れ帰れ…………はあっ!?!?!?」
 今日いちばん驚いた声を上げたイスティは、奏多のスマフォ画面を凝視していた。奏多はちょうどアプリを起動して……パーティ? というのを確認している。イスティは震え慄くように言った。
「き、ききき、きさま、それ……そのSSRオンリーかつ当然のようにオールレベルマスキルマの廃人編成は一体……?」
「わー全体すげえ金ぴか」
「目が、ちかちか、する……」
「? 何。べつに普通じゃん」
「普通なわけがあるか! きさまそれ……それ、いったいいくら突っ込んだのだ!? ありえんだろう!」
「いくらって」
 きょとんとした顔で奏多はさらりとおそろしい言葉を続けた。
「覚えてるわけないじゃん。大体出るまで回してるし」
「セレブッ!?」
 ごはっ、とイスティは血のようなものを吐いて倒れた。致命傷らしくぴくぴくと床で痙攣している。
「なにコイツ。このクソ魔王なんで死んだの勇真」
「たぶん、時間だけしかないやつは、時間も金もあるやつにはかなわないっていう現実の冷たさに耐えられなかったんじゃないか……?」
「生きて、まおちゃん……」
 雪凪の健気なエールにもイスティは起き上がれない。あわれな。
 そして勇真は、リセマラという単語は奏多に教わったのを思い出していた。「バッカみたいよね。どうせ出るまで回せば出るのに」などと今思えば血も涙もないことまで言っていた気がする。
「でも奏多、おまえほんと、それにいくらかけて……?」
「いくらでもかけるわよ。ソシャゲはゲームであっても遊びじゃないんだから」
「その表現は頼むからやめてくんない!?」
 いろいろと危なすぎるから。
 やっぱりソシャゲってこわい。勇真は改めてそう思ったのだった。

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