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間食裁判 著:南篠豊 イラスト:れい亜

 冷蔵庫の食材がよくなくなっている。
 前々から奈月おばさんから報告を受けていた事案で、最近目に余るとのことなので勇真が調べることになったのが今朝の話……なのだが。
「で? 弁明はあるか食材泥棒」
「くっ……殺せ!」
「うるせえ生きて反省しろ」
 くやしげに俯いて正座する金髪金眼の美少女――居候中のダメ魔王イスティを見下ろして勇真は言った。深夜零時過ぎ、張り込み開始五分でまさかの現行犯逮捕。
 電撃的決着である。
「まあ察しはついてたけどさ……にしたって、これはどうなんだ?」
 あまりにもあっさり判明しすぎてしまったので、このまま取り調べまがいのことを行うことにした。
 持ち出そうとしていた食材をテーブルに並べ、それぞれについて尋ねていく。
「まずヨーグルト……いやこれはわかる。夜にたまに食べたくなるよなヨーグルト。俺も好きだ」
「ふん、せんべいやスナック菓子に飽きたのだ。悪いか」
「開き直るな下手人風情が。で、次。チーズ。……これもまあ、わからないでもない。さけるチーズはおいしいよ。たしかにおいしい。ワンランク上の間食ってかんじがするからな。手に取りたくなる気持ちはわからないでもない」
 ここまでは勇真も理解できる範疇だ。
 しかし、このへんからだんだん見境がなくなっていく。
「問題は次からだ。てはじめに、ちくわ。……ちくわっておまえ。これ食べちゃうの? 自分の部屋で、夜中にこのまま?」
「生でも大丈夫って書いてあるではないか」
「書いてあるよ。たしかに書いてあるけども、あえて選ぶかって話だよ」
「ぬう……おいしいのだがな……」
「いやおいしいとは思うさ。よくよく考えたらアリな気もする。刻んでツナ缶とマヨネーズであえればもっと……」
 じゃなくて。これは受験のときに勇真がつくったお手軽かつデンジャラスな夜食メニューだ。それにハマったせいで一時期すこし太ったのもいい思い出である。
「ツナ缶! その手があったか!」
「やめろうれしそうに手を打つな」
 運動不足の引きこもりには危険すぎる。いやツナ缶の話はべつにいいのだ。
「で、次。ウインナー。……これはだめだ。これはだめだろ。ほらここ、火を通せってちゃんと書いてあるだろうが。そのままぽりぽり食ったら腹壊すぞ」
「魚肉ソーセージも生でいけるし大丈夫なのではないか?」
「いけねえよ一緒にするな。いや普通は問題ないけど、これはウインナーはウインナーでも生ウインナーだからだめだ。食肉製品じゃなくて食肉加工品だからな。大体、普通のだって焼いた方がおいしいだろウインナーは」
「でも我、茹でる派だしなあ……」
 料理しねえくせに一丁前にこだわり持ちやがって。
「いちばん気になるのはここからのラインナップだ。明太子、味付け海苔、海苔佃煮、釜揚げしらす……極めつけはふりかけときた。なんなんだ。おまえまさか部屋で飯でも炊いてるのか?」
「…………酒ならたまにちびっとだけ」
「おっさんのつまみか!」
 十代そこそこの見た目でのんべえか。たしかにこいつの魔王としての実年齢とか全然知らないけど。
「だってきさまら誰も飲んでいないではないか! けっこう高そうなの奥の方にしまってたりするし。宝の持ち腐れだろう!?」
「あー、たしかに親父の土産とか棚の奥にためこんでた気が……それならまあくすねても……」
「えっいいのか」
「節度だけはわきまえろ」
 善処しよう、と正座したまま真摯にうなずくイスティ。普段からそういう態度でいてほしいものだ。
 まあ酒の話はさておき。
 勇真はいたってまじめな顔で「総括するとだな」と言った。
「結論――おまえには生鮮食品が足りてない」
「生鮮食品……」
 イスティはごくりとつばを飲み込んだ。
「てめえのくすねようとしてた食い物全部見てみろ。どれも加工食品ばっかじゃねえか」「それはまあ」
「加工食品がだめとは言わねえよ。でもいいか、健康でいたいならちゃんと生ものを摂取しろ。どうせ食べるならほら、野菜室に果物があるだろ。このへんのりんごなんかを剥いて食べた方がずっと健康的だし、なによりこのへんのスペースは俺らがかってに食べてもいいように奈月おばさんが買っておいてくれてるゾーンだ。わかるな? くすねるならここだ。覚えておけ新参」
「おもむろにりんごを剥きはじめた……? 手際良いぞこの顔面ヤクザ……」
「いや話してるうちに俺もおなかすいてきたから」
「こいつ、もう一個取り出して剥いて……!?」
 せっかくだしと思って。
 で、ふたつめのりんごを剥き終わったタイミングでイスティ同様食べ物を求めて雪凪もふらふらと台所にやってきたから、腹ペコ三人でりんご二つと適当な果物を一つ仲良くたいらげたのだった。

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