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老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます

著:FUNA イラスト:東西

異世界転移1周年!

「ミツハ、3日後は、こっちへ来て、そのまま泊まってよね!」
「え? ……うん、他に予定はないから、別に構わないけど……」
 珍しい。コレットちゃんが、こういう種類の我が儘を、それも日付指定でするなんて、初めてなんじゃないかな?
 まぁ、特に予定もないし、たまには一日中コレットちゃんを構ってあげるのもいいか。私はあちこち飛び回っているけど、コレットちゃんは、家族と離れてずっと領地邸暮らしだものね。そりゃ、寂しくもなるよねぇ。
 それに、いつも聞き分けがいいけど、コレットちゃんは、まだ9歳だ。もっと我が儘を言ったり、みんなを困らせたりしてもいい年頃だろう。
 本当なら、野生児コレットちゃんは、もっとワイルドで、森や山を駆け回って、ゴブリンやコボルトを蹴り殺す、元気で楽しい毎日を過ごしていたはずなんだろう。それを、私の我が儘で、両親から引き離して……、って、やめよう、それは承知でスカウトして、コレットちゃんも御両親も、それを望んでくれたのだから……。
 3日後は、丸々一日、コレットちゃんと一緒に過ごそう。

 そして3日後、思い切り遊べるようにラフな恰好をして、朝イチで領地邸へ。
「来たよ~」
「来たか~。
 じゃ、すぐに転移で村までお願い」
「え?」
 どうやら、久し振りに里帰りしたいらしい。
 そりゃ、まだ9歳なんだから、両親が恋しいよねぇ。
 よし、秘技・連続転移の術!

「「いらっしゃ~い!」」
 コレットちゃんの家の外に転移して、コレットちゃんちを訪問。
 ……いくら何でも、いきなり他人の家の中に転移したりはしないよ!
 そしてコレットちゃんの御両親に歓迎されて、そのまま何やら外へと連れ出された。
 いったい、どこへ……。

 そして連れて来られたのは、村の中央にある、お祭りや集会の時に使われる広場。
 そしてそこには……。
「何、これ? 今日は村のお祭りか何かなの?」
 そう、ほぼ村の人達全員じゃないかと思われる人数がいて、あちこちに料理や飲み物が並べられている。これを祭りと言わずに、何と言うのだ!
「うん、今日は村を挙げてのお祭りだよ!」
 あ、やっぱり……。
「で、何のお祭りなの?」
 そう尋ねると、コレットちゃんは、にぱっと笑って教えてくれた。
「うん、今日は、記念日のお祭りなの。
 ある日村に突然現れて村人の少女を救い、狼の群れを倒して、敵国と魔物の大群から国を護り、古竜の群れを倒し、侵略者の大艦隊を蹴散らしてこの大陸の全ての国々を助け、この伯爵領に富と発展をもたらし、そして助けた村の少女を巫女としてお側にお召しになられた、女神の御使い様を称え、その御降臨1周年をお祝いするお祭りだよ。これから毎年開かれることになったの」
 ふぅん、そうか。しかし、世の中には凄い人がいるもんだな、ひとりで魔物や古竜に、敵の大艦隊を……、って、私か~~い!!



「ミツハ、4日後、うちへ来て、そのまま泊まってよね!」
 イリス様と一緒にうちの領地邸に遊びに来たベアトリスちゃんが、突然そんなことを言ってきた。
 いや、ま、いいんだけどね……。
「ミツハ、言っておきますが、あなたに拒否権はありませんよ!」
 は~い……。
 あ、テオドール様は、伯爵様と一緒に領地の視察中らしい。
 アレクシス様が独立して新たな貴族家の開祖、ボーゼス子爵家当主となられたため、伯爵家はテオドール様が継がれることになったんだよね。だから、『万一の時のための予備』であったテオドール様に、次期当主様としての教育が本格的に始まっちゃったらしい。
 しかも、我が国唯一の軍港と造船所、そして海軍学校の所在地として、これから王都に次ぐ大都市となる予定のボーゼス伯爵家の、だ。そのうち、侯爵家になる可能性も、そう低くはない。
 人口も生産量も金の流れも爆発的に増えるボーゼス伯爵領は、多分、伯爵様ひとりでは回せなくなる。テオドール様も、伯爵様の右腕として、すぐに実戦投入されるだろう。……なむなむ。
 アレクシス様も、今頃は伯爵領に協力するため、御自分の子爵領で奮闘されていることだろう。早い時期から領主教育を受けていて良かったね、アレクシス様……。
 で、まぁ、留守番組のイリス様とベアトリスちゃんが遊びに来た、というわけだ。

 そして、4日後。
 転移で、ちょちょいとボーゼス伯爵家の領地邸へ。
「こっちよ、ミツハ」
 ベアトリスちゃんに手を引っ張られて連れて行かれた先は……。
「「「「ようこそ、ミツハ!」」」」
 テーブルの上に並べられた料理と飲み物、そしてボーゼス伯爵家一同が、勢揃い。アレクシス様もいる。わざわざ自分の領地からやってきたのか……。
 そして、執事のシュテファンさんを始め、使用人さん達も勢揃い。……いったい、何事!?
「覚えているかな、ミツハ。今日は、ミツハが初めて我が伯爵家を訪問した日。あれから丁度、1年目になるんだよ」
 あ! そうか、もうそんなになるんだ……。
 って、先日、コレットちゃんの村で1周年のお祭りがあったんだから、そりゃそうか。
 伯爵様の説明で、やっと今日呼ばれた理由が分かったよ。
 そうか。
 そうかぁ……。



「ミツハ姉様、6日後、うちへ来て、そのまま泊まってよね!」
『雑貨屋ミツハ』にやってきたサビーネちゃんが、突然そんなことを言ってきた。
 いや、『うち』って、あなたのおうちは王宮でしょうが! そんな、普通の女の子が友達を自宅に招くような……、って、そうか、サビーネちゃんには、そうやって気軽に自宅に呼べるようなお友達はいないのか、私以外には。だから、普通の友達ごっこを味わったことが……。
 よぉし、任せろ! その役目、この私が引き受けた! 親友だもんね、私達!

「来たよ~」
「来たか~」
 そして、やってきました、勝手知ったる王宮の、サビーネちゃんの部屋。
 いや、勿論、メイドさんに案内されて、だよ。さすがに、王宮の最奥部をひとりでうろついたりはしない。……迷子になるからね。
 ひとりでうろつくこと自体は、許可されているんだよなぁ、王様に……。はぁ。
 サビーネちゃんの部屋は、一応は女の子らしい部屋ではあるんだけど、ふわふわきゃぴきゃぴしたものは無い。どちらかというと、男の子の部屋みたいだ。
 そして壁際の机の上にある、2台の無線機。その横にサビーネちゃん用以外の椅子があるのは、多分、私が領地へ戻っている期間でサビーネちゃんが部屋にいない時は、メイドさんか誰かに番をさせているからだろう。
 ……24時間即応態勢かよ!
「姉様、こっち!」
 あれ、いつもなら自分の部屋で私を独占したがるのに、珍しいな。いったいどこへ連れていくつもりなのやら……。
 って、これは!!

「姉様、覚えてる? 私が初めて姉様に会って、そして誘拐犯から助けて貰ってから、今日で丁度1年だよ!」
「……ということは、儂と会ってからも、今日で1年というわけじゃな」
「ということは、この国へ来て、店を開いてから概ね1年、ということですかな」
 サビーネちゃん、王様、王妃様、宰相様、弟のルーヘン君、そしてお兄さんやお姉さん達……。
「「「「「「「「我が国の国民となって1周年、おめでとう!!」」」」」」」」
 ……そうか。
『来訪1周年』じゃなくて、『国民となって』か。
 そうかぁ……。

 おとうさん、おかあさん、そしてお兄ちゃん。
 みんなが事故で死んじゃってから、1年半。
 そして、私が初めてこの世界に来てから、1年。
 家族を亡くし、家や保険金狙いの親戚と絶縁し、クラスメイトや幼馴染み達は進学や就職で都会へいっちゃったから疎遠になり、独りぼっちだった私。
 住む家はあっても、『自分の居場所』がなくなり、ぼんやりしていたあの日。
 今は、私の居場所は、あちこちにたくさんある。
 あはは……。



「来たよ~、隊長さん! 日時指定で呼び出すなんて、珍しいね。会わせたいお客さんか何か?」
「おぉ、来たか! いや、何、嬢ちゃんがうちに来始めて、丁度1年経ったからな。
 皆が、うちに金貨と名誉とドラゴン素材をもたらした福の神に感謝の宴を捧げたい、とか言い出しやがってな……」
 ああ、ここの連中もか……。
 はは。あはははは!



 そのうち、この不思議で楽しい日々のことを公表する時が来るかも知れない。
 いつか、私がいなくなった時に。
 もしくは、異世界のことを世間に公表しても構わない状態となった時に。
 あるいは、この、私の数奇な物語をフィクションだということにして、小説という形で。
 その時のために、日記を書いておこう。
 それを小説として発表する時には、勿論、ペンネームが必要だね。あと、ダミーとして立てる、身代わりの作者と。
 どんなペンネームがいいかなぁ……。

F ファンタジィみたいだけど
U ウソじゃないよ
N ノーマルな私が綴る
A ありえないような、素敵な物語……

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