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レベル1だけどユニークスキルで最強です

著:三木なずな  イラスト:すばち 

1周年記念ダンジョン

朝起きて部屋をでて、洗面所に向かうために廊下を歩いていると庭に変なものが窓から見えた。
 昨日まではまったくなかったもの、というか普通に考えてそこにあるはずのないもの。

 布団に戻って二度寝したい眠気が吹っ飛び、俺は行き先を変更して庭に出た。

 近くに来ると、それの異様さが一段とよく分かる。
 地上1メートルくらいの宙に浮いてて、まるで天気図の台風のように光が渦巻いてる。
 中心はイルミネーションのように色が絶えず変化して、ゆっくりと明滅を繰り返している。

 ドラ○エ風にいうと旅の扉、普通に考えて何かのゲートって感じのものだ。

「おはようなのです」
「あっ、おはようエミリー。これ、なんだか知ってるか」
「これ?」

 エミリーは小首を傾げた。
 目の前にあきらかに非日常的な光の渦があるのにもかかわらず、それが見えていないって様子だ。

「見えてないのか?」
「はいです……あっ、もしかして誕生日ダンジョンなのです?」
「誕生日ダンジョン?」
「はいです。1年に1回、その人の誕生日に現われるオガネソンというダンジョンなのです。その人にしか見えないし入れないのです」
「118番か……」
「はいです?」
「いやなんでもない。しかし誕生日ダンジョンか……」

 誕生日の人にしか見えないのはいいとして、俺は別に今日が誕生日ではない。
 季節がまるっきり逆、半年も違う。

「あっ……」
「どうしたですか?」
「もしかして……俺がスライムからドロップして1周年ってことか?」
「……本当なのです! 今日で1周年なのです!」

 急にエミリーが興奮しだした。

「それで今日が誕生日だってことか」
「ヨーダさんのお母さんはスライムなのですね」
「エミリーはさしずめ産婆さんってとこか」
「産湯はもやしのスープなのです」

 あの日の事をちょっと思い出して、二人で笑い合った。

 話はわかった。俺がこの世界に転移した日が誕生日ってことか。
 念の為にオガネソンの事をもっとよく聞くと、エミリーには見えてないが、彼女の時と入り口の見た目が同じだ。

 目の前で渦巻く光のゲート、間違いなくオガネソンへの入り口だ。

「どういうダンジョンなんだろ。ダンジョンの構造とかモンスターの種類とか知りたいな」
「それは入ってからのお楽しみです」

 エミリーはニコニコした。

「私たちはもう完全クリアする事は無理です――あっ、アリスちゃんならいけるです。でもヨーダさんならきっと楽々なのです」
「なんだ、気になる言い方をするな」
「入ってからのお楽しみなのですよー」

 エミリーは更にニコニコしながら、俺の背中を押してきた。
 聞いても教えてくれそうな雰囲気じゃない、いいからとにかく入ってみろって感じだ。

 ものすごく嬉しそうに「もう無理」って言うのが気になるところだが――だからこそ入ってみることにした。

「じゃあ、行ってくる」
「朝ご飯用意して待ってるです」

 ニコニコするエミリーに送り出されるようにして、俺は光の渦をくぐった。
 一瞬、目の前が真っ白になるほどの光に包まれる。

 手のひらをかざして目を背ける、しばらくして光が収まった。
 目を明けると――驚いた。

「2万ピロの部屋……か」

 俺が立っていたのはかつて住んでいた部屋。
 エミリーに恩返しをするために、3日間ダンジョンに潜って、もやしのスライムを狩りまくって借りた、月2万ピロのボロアパートだ。

「本物か……?」

 と、思わずつぶやくほどだった。
 ぼろさ加減は一緒、柱に前の住民が残していった背丈を測った跡も一緒。
 天井の隅っこにある人の顔のように見える染みまで一緒だ。

 完全にあのアパートのあの部屋だ。

 どういうことなんだ? って不思議がっていると。

「――っ!」

 体がいきなり炎に包まれた。
 幻覚じゃない、体を実際に焼いてくる灼熱の炎だ。

「――ふっ!」

 腕をクロスしてググッと力を溜めてから、ぱっと腕を開いて炎を気合で吹っ飛ばす。
 同時に二丁の拳銃を抜いて構え、ぐるっと周りを見回した。

「セレスト!?」

 部屋の反対側にセレストがいた。
 彼女はすぅ、と手を上げる。

 ――ぞわっ

「セレスト!?」

 次の瞬間、俺の体は再び炎に包まれた。
 渦巻く業炎、骨の髄まで響く灼熱の炎。

 セレストが得意とするレベル3の魔法、インフェルノだ。

 もう一度気合で炎を吹き飛ばし、体から煙を上げながらぱっと距離を取った。

「どうしたんだセレスト!」
「……」

 セレストから返事がない、それどころか反応すらまったくない。
 まるでマネキンにでもなってしまったかのように、無表情で俺を見つめる。
 そしてまた手をすぅと上げる。

 とっさに横っ飛びした、たったいま立っていたところが炎で燃え上がる。

「俺が――」

 ――分からないのか、と聞こうとした瞬間、違和感に気づいた。
 違和感の正体を探るべく部屋の中を見回す。

 何もない、変わったところは何もない。
 それが違和感だった。

 3回にわたってセレストのインフェルノが放たれたが、部屋は何も変わってない。
 月2万ピロのボロアパート、普通ならもう大炎上、いや消し炭になってるはずだ。
 それが何事もなかったかのように元の状態を保っている。

 1周年記念ダンジョン、オガネソン。
 ここはあのアパートじゃなく、あれにものすごく似たダンジョンだ。
 となれば目の前のセレストもセレストじゃなく、ドッペルゲンガーとかそういうモンスターだろう。

 そう考えればいろいろ納得する。
 無表情で俺を攻撃するのも、エミリーが「入ってからのお楽しみ」と言ったのも。

 チャキ、と銃を構える。
 まずは通常弾でセレストの手足を撃ち抜く。

 撃ち抜かれたセレストはがくっとバランスを崩した。

「やっぱりモンスターか」

 確証を得て、俺はホッとした。
 セレストっぽいヤツの撃ち抜かれた手足から血が出ていない。
 弾痕からは七色に明滅する光が漏れている。

 ダンジョンの入り口、あの光の渦と同じ光だ。

 それで安心して、俺は偽セレストに肉薄して、全力で殴り飛ばした。

 偽セレストは上半身がねじれきって吹っ飛び、倒れた後、ポン、とモンスターのように消えてなくなった。

 光の渦が現われた。

「入れって事か……しかし、ドロップはないのか?」

 訝しみつつも光の渦を潜ると、何となくこのダンジョンの事がわかった。

 渦の向こうは二つ目に借りた家、あの新築の2LDKの部屋だった。

 そこのリビングで、無表情のイヴが待ち構えている。

「いやいつも無表情だけど」

 軽く突っ込みながらも、オガネソンの事がわかった。
 今まで住んだことのある部屋のダンジョン、モンスターは……多分親しい人のクローンだかドッペルゲンガーだかそんなものだ。

 部屋の再現度はピカイチ、そしてモンスターの強さもオリジナルとほぼ同じ。
 というのは、エミリーの台詞からの推測だ。

 多分エミリー達のオガネソンには俺が出る、だから彼女はもう完全クリアはできないといった。
 唯一アリスが可能なのは、オールマイトで召喚するりょーちんが俺と同等だから、倒せる可能性があるということ。

 そう考えると全てが納得、オガネソンの全てが理解できたような気がした。

 次の瞬間、偽イヴがスタスタと向かってきた。
 彼女は手を振り上げてから、ゆっくりと俺に向かって振り下ろす。

 得意のチョップ、しかしものすごく遅い。

 今までの中で一番遅いチョップ。
 俺は腕をクロスさせて、気合をいれてガードした。

 ズシーン! ガガガガガガ――

 イヴのチョップは遅く見えれば見える程威力が増す、扇風機の羽根が遅く見えるあの現象と一緒だ。

 ガードしたこのチョップは過去最大級の威力だ。

 思わず口元に笑みがこぼれた。

「いつものはまだ手加減してたのか!」

 何回も「低レベル嫌い」とチョップを食らってるが、これに比べると全然優しいものだった。

 俺は全力を出して偽イヴと戦った。
 パワーも、スピードも。
 偽イヴは俺が知ってるイヴよりも遥かに上だった。

 もしかしたらオガネソンのはパワーアップした姿かも、とも思ったが、偽イヴを倒した後の光を渦をくぐって、屋敷の庭で戦ったアリスは俺が知ってるアリスだった。

 本人は弱く、仲間のモンスター達に戦わせてる。
 切り札として出したりょーちんと俺は全くの互角で、戦っても勝負はつかなかったが、制限時間の60秒が経過して向こうが消えた。

 オガネソンはやっぱり、仲間の強さそのままで出てくるみたいだ。

 屋敷の中に入ると、最後の一人、エミリーが待ちかまえていた。

 130センチの小柄な体ながら、2メートル以上の巨大なハンマーを楽々と持ち上げる怪力。
 そんな彼女が立っている屋敷の玄関先は明るく、温かく。
 まるで神殿の様な波動を放っていた。

「ラスボスだな」

 そんな言葉が口からこぼれる俺。
 言った自分でも分かるくらい、楽しく、面白がってる口調だ。

 偽エミリーはハンマーをぐるぐる回して、構えた。
 俺は銃を突き出して構えた――次の瞬間。

 偽エミリーの姿が大きくなった。
 いや大きくなったわけじゃない、一瞬で突進してきたのだ。

 ものすごい圧力と共にハンマーが振り下ろされる、ガードすると足が床にめり込む。

「強くなったな!」

 俺はますます楽しくなった。
 出会った頃はスライムにも苦戦したエミリーがこんなにも強くなってる。
 その事がものすごく楽しかった。

 距離を取って、通常弾を撃ち込む。
 偽エミリーは巨大なハンマーを軽々と回して、銃弾を弾く。

 パワーとスピードだけではない、偽エミリーの動きはエミリーに実際に見せてもらったパターンもあり、そうじゃないものもある。
 そんな偽エミリーを相手に、俺は全力をだした。
 拘束弾で動きを止めて、消滅弾で念入りにハンマーを落としてから、貫通弾の連射で本体を倒す。

 偽エミリーは糸が切れた人形のように崩れ落ちて、ほかと同じように、ポン、と音を立てて消えた。

 今まではドロップがなかったのだが、エミリーは違った。
 消えた偽エミリーからちゃんと物がドロップされた。

 ドロップしたのは、一枚の写真。
 俺たち――ファミリーの仲間がうつった写真だった。
 この世界には存在しない、ちゃんとした写真。

 写真の中ではみんなが楽しそうにしている。
 俺も、エミリーも、セレストもアリスも。
 イヴでさえも、無表情だが、どこか嬉しそうな感じでうつっていた。

 転移してきて1年、これが、俺が出してきた成果だ。

 俺はその写真を懐にしまう、大事にしまい込む。
 来年はこの写真にもっと人が増えるのかな、と。

 心を弾ませながら、現われた光の渦に飛び込んでいく。
 2年目の、楽しさに満ちた異世界生活を満喫するために。

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