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俺の『鑑定』スキルがチートすぎて――伝説の勇者をまるっと読み“盗り”最強へ――

著:澄守 彩   イラスト:冬馬来彩

これからの一年

シルフィーナ・エスト・フィリアニスという少女には、とある一年間の記憶が抜け落ちている。
 
 かつて彼女は自分が何者かわからなくなった。
 そのとき出会った少年の活躍で、彼女は自分を取り戻したものの。
 
 引き換えに彼と過ごした一年間を――大切な彼との思い出を失ってしまったのだ。
 
「取り戻したいか?」

 白く広い部屋。豪奢な椅子に腰かけた美女が問う。艶めかしい衣装で豊満な肢体をくねらせ、どこか冷たい笑みを浮かべていた。
 
 妖精王ウルタ。
 刹那的な享楽を好む不老の王は、眼下の少女に言葉を落とした。
 
「そちの失われた一年とやらを、取りもろひひゃいひゃひゃひゃひゃ?」

 話の途中で両の頬がびろーんと伸ばされる。
 幼子が彼女の肩によじ登り、肩車の格好で後ろからウルタのほっぺたを引っ張っていた。幼子の褐色の肌には、炎のような模様が描かれている。
 
「アケディアちゃん、『めっ』だよ」

 幼子はパッと手を離す。

「はっはっは、幼児の分際で力強いではないか。けっこう痛かったぞ☆」

「ご、ごめんなさい」

 シルフィーナは駆け寄ってアケディアを引き離すと、玉座から離れて腰を落とした。膝に幼子をのせてあやす。
 
「では話を戻すか。えーっと……なんであったかの?」

「わたしの記憶を取り戻すとかどうとか」

「それな☆ で、どうなのだ? 興味はあるか? あるだろう? あるに決まっておる!」

 どどーんと指を突き出す妖精王ウルタ。
 対するシルフィーナはアケディアの頬をぷにぷにつつきながら、困ったような笑みを浮かべた。

「興味は、あります。取り戻せるものなら、取り戻したいです。でも……」
 
 それはできない。
 
 世界中の事象を見通せる“神の眼”を持つ少年が、それこそ世界中を見渡して『シルフィーナの記憶を取り戻す方法』を探ったのに、見つからなかったのだ。
 
 寂しさはある。哀しくもある。
 けれどシルフィーナの中で、すでに気持ちの整理はついていた。
 
「たしかに“神眼”で探って『ない』と結論が出たのであれば、存在はせぬだろう」

 ウルタは冷ややかに言うも、意味深に続けた。
 
「今現在は、な」

「?」

 シルフィーナが小首をかしげると、マネしてアケディアも頭を傾けた。
 
「いまだ現れぬ特殊な固有スキルを持つ者が、どこかで生まれるやもしれぬ」
 
 固有スキルは22歳になったら誰もがひとつ授かるものだ。
 呪いを解除する類も存在するが、記憶を取り戻すタイプはシルフィーナには想像できなかった。
 
「そんな便利な……というか、使いどころが狭すぎる固有スキルなんて、あるんでしょうか?」

「ふはははは! なければ作ればよい。そちらのすぐ側に、それを可能とする者がおるではないか。Yes! すなわち神 is ゴッド!」
 
 満面のドヤ顔でふんぞり返るウルタと、それをマネするアケディア。
 
「ふははははは!」
「きゃきゃきゃ!」

 二人の高らかな笑いが、白い部屋に響き渡った――。
 
 
 
~~~



 というお話を、シルフィから聞いたわけだが。
 
 俺が最初に抱いた感想は、『あ、これ俺たちが振り回されるの見て楽しむヤツだ』である。
 
「メルくん、どう思う?」

 シルフィはアケディアちゃんを抱っこして、上目遣いで俺に尋ねた。
 
 俺的には『ウーたんの暇つぶしに付き合う必要なし』と返したいところだが、今回はネタがデリケートであるため、細心の注意が必要だ。
 
 シルフィが失った一年間の記憶を取り戻す。
 
 できるなら俺も実現させてみたい。その方法は、機会があるたびに世界の情報を読み取って調べていた。
 
 でも、いまだ見つからない。
 見つからないのなら、神の奇跡とやらに縋るのもひとつの手ではあるだろう。
 
 あるだろうが、しかし!
 
「あのポンコツ女神どもに、できるかなあ?」

 俺が率直な感想を述べると、シルフィはなんとも言えない微妙な笑みを浮かべた。
 信仰心がほぼほぼ皆無な俺に対し、この子は『光の巫子』という立場を除いても、大地母神信仰にどっぷり浸かっているからな。
 不用意な発言は困らせるだけなので自重しよう。
 
 さてさて。
 話を戻して、無視するには軽くないネタだ。かといって変に期待を持たせては、あとでシルフィがひどく落胆してしまう。
 表面的にはあくまでお気楽に、深刻になりすぎず。
 
「ま、今はやることもないし、ペリちゃんたちに挨拶しに行くのもいいかな」

「うん。せっかくだから、お弁当を作って持っていこうかな」

 幸いにもシルフィはあまり深く受け取っていないようで、信仰の対象たる大地母神に会うのを楽しみにしていた。
 
 
 
 で、妖精の国にある森の奥深く。
 シルフィはピクニック気分でお弁当を作ってきて、なんだか鼻歌まで歌っている。俺に背負われているアケディアちゃんもノリノリだ。
 うーん、これは……けっこう期待しているのか?
 
 ちょっと軽率だっただろうかと不安になりつつ、かつては鎖で堅牢に閉ざされていた泉へとやってきた。元は迷惑な女神を閉じこめていた場所だけど、今は女神様二人がのんびりお過ごしになる住まいを提供している。
 
「隔離されている感じがしなくもないのだけれど?」

「ははは、まさかそんな。ははは」

 さっそく胸部控えめなほうの金髪美人さんが半眼で睨んできました。
 笑ってごまかす俺。

 泉の水面がぶくぶくと泡立ち、胸と股間を隠しただけの破廉恥な女性が姿を現す。
 
「やっほー♪ 今日も元気にしこし――「今日は大地母神様にお尋ねしたいことがありまして」――やーん無視しないでー」

 痴女の相手はしたくないです。
 大地母神――ペリちゃんことペリアナは「わたしに?」とこれまた痴女神ヘルメアスを無視し、俺たちに正対する。
 
「実は――」

 俺はウーたんが口走った思いつきを語る。
 ペリちゃんは苦虫を噛みつぶしたような顔になった。
 
「残念だけど、無理よ」

 まあ、そうだろうなあ。
 なんだかんだでこの女神様は人に優しく甘い。もし可能なら『悪竜討伐のご褒美よ』とか言って、とっくにやっていただろう。
 
「いちおう、理由を尋ねても?」

「だってわたし、すでに存在する固有スキルしか与えられないもの」

 つまり、世の中にシルフィの記憶を取り戻すスキルは存在しない、ということか。
 
「でも俺にはすげースキルくれましたよね?」

「あれは“神眼”に『鑑定』を被せただけよ」
 
「それじゃあ、そもそも誰が固有スキルを作ったんですか?」

「個ではなく群。多くの神々が自身の権能を集めて作ったの。まとめていたのは当時の最高神ね」

 ペリちゃんはシルフィに抱っこされているアケディアをちらりと見た。
 なるほど。悪に堕ちてみんなで倒したファブス・レクスか。今は生まれ変わって人族のアケディアちゃんになっちゃったから、また神様を集めて新たなスキルを創造するのは無理っぽい。
 
「ちなみに神の権能にも該当するものはないから、あなたのときみたいに何かしらのスキルを被せて、というのも無理よ」

 そもそもピンポイントすぎる能力だ。そんなもの、授かった人が困るだろう。
 
 けっきょく、というか、やっぱり。
 神様に縋っても奇跡は起きなかった。
 
 わかっていたとはいえ、シルフィは落胆してやしないかと彼女を見やれば。
 
「メルくん、お話はもういいかな? すこし早いけど、お昼にしようよ」
 
 シルフィは楽しそうにお弁当の入ったバスケットを掲げてみせた。
 
「あら、用意がいいじゃない。わたしたちへの供物もあるのよね?」

「私もいいのかな~? さっきからガン無視されてるんですけど~」

「もちろんお二方の分もご用意しています」

 シルフィが女神顔負けの笑みを咲かせる。
 俺は余計なツッコミやらは控え、大きなシートを敷いて準備を整えた。
 
 
 
 お弁当はサンドイッチと、濃厚なソースを後からかける分厚いハンバーグだ。冷めても美味しい。
 俺はアケディアちゃんと並んでサンドイッチを貪り食う。このお子様、もう大人並みの食欲を持っているのだ。
 
「ちょっとあなたたち、すこしは遠慮しなさいよ。わたしの供物でもあるのよ?」

 負けじとサンドイッチに手を伸ばす女神様を見て、前々から気になっていたことが口に出た。
 
「そういえば、神様も食事するんですね」

「そりゃまあ、受肉して現界したからね。でも、べつに必要ではないの。元々わたし、信仰心を糧にしているから」

「なるほど。でも食べるってことは、出さなくちゃいけないわけですよね?」

「今それを訊く!? 食事中に! しかも神だどうだは横に置くとして、女性に訊く!? デリカシーなさすぎでしょ!」

 素朴な疑問だったのだが、たしかに時と相手が悪かった。反省。
 ヘルメアスさんがきらりんと目を輝かせた。特殊性癖トークに移行してはマズいと、俺はあえて矛先を彼女へ向ける。

「信仰心で神様パワーを得るってことは、ヘルメアスさんヤバくないですか?」

 ペリちゃんは大地母神信仰が根付いた俺たちの世界では食べきれないほどパワーをもらえるだろうけど、
 
「ぶっちゃけ、めっちゃマイナーですよね?」

 むしろ知っている人がいないんじゃないかってくらい。
 
「きみってぇ、ときどきウーたん並みに心を抉ってくるよね~」

「見た感じダメージを負っているようには見えませんが?」

「むしろご褒美、的な? だいたい、わたしは信仰心じゃなくて、世に悶々と蔓延るエロスパワーを――」

「このハンバーグめっちゃ美味いな! 腕を上げたじゃないかシルフィ!」

「へ? ああ、うん。グラちゃんに手伝ってもらったから」

「また無視する~。でもそれがよかったり!」

 ほんとめげない女神だな。
 
 などとバカ話を続けるうち。
 ヘルメアスさんの付き人(?)の半裸男たちが水面で妙なダンスを披露したり、アケディアちゃんがペリちゃんを物理的にいじくり回したり、なんだかよくわからない時間はあっと言う間に過ぎて――。
 
 
 
 夕方、寝息を立てるアケディアちゃんをおんぶして、シルフィと連れ立って帰路につく。
 
「悪かったな。けっきょく今までと変わらずだ。ウーたんにしてやられたな」

 話を蒸し返すのはよくないと思いつつも、謝罪が口をついた。
 
 それでもシルフィは、いつもと変わらぬ笑みで応える。
 
「気にしてないよ。すごく、楽しかったから」

 手をつなぐ。ぎゅっと握り返してくる少女に、俺も笑顔で返した。
 
 失われた一年は、もう取り戻せないとしても。
 
 これから先、一年ずつ。
 あのとき以上の楽しい思い出を、この子と一緒に作ろうと誓った――。

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