ラノベブックス

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俺だけ入れる隠しダンジョン ~こっそり鍛えて世界最強~

著:瀬戸メグル イラスト:竹花ノート

いずれ最強のコウランシャブックス

 つんつん、つんつんつん。
 何らかの刺激によって、僕の意識が少しずつ覚醒していく。ぼんやりとした視界に映るのは見慣れた天井だ。
 まだ刺激は続いている。どうやら僕の両肩が誰かによって突かれているみたいなので、右側に顔を向けると幼馴染みのエマがいた。

「やった! ノルがあたしの方を向いた!」
「エマ? 何で朝からそんなにテンションが高い……以前にここ僕の部屋なんだけど」
「ノルのこと、おこしにきたんだよ~」
 
 エマがニコッと笑うと綺麗な歯並びが見える。そして彼女の反対側のベッド横から、歯ぎしりが聞こえてきて僕は振り向く。
「……アリス、何で悔しがってるの?」
 妹のアリスが、シーツを噛んで悲しみの表情を浮かべている。
「酷いですお兄様、どうして、どうしてアリスの方を先に向いてくれなかったんですかっ」
「えっ、そんなこと言われても……」
「今ね~、二人で勝負してたんだ~。ノルは、あたしとアリスのどっちを先に見るかって」
 
 それで両サイドからつんつんをされていたわけだね。僕で遊ぶのはやめて欲しいよ全く。
 勝負に勝ったエマは実に嬉しそうで小躍りしている。落ち込むアリスを僕が慰めると、なぜかベッドに入り込んできたじゃないか。
「これはLPを貯めるためです。いいですよね?」
「僕がいいと言う前に思い切り抱きついてきてるね……」
 
 僕は美味しいものを食べたり、女性と仲良くすることでLPというポイントが入る。
 このLPが貯まると強いスキルを獲得したり、誰かに付与できたりする。 
 こうやってアリスとハグをするだけでも、LPは入るので実はありがたい。
「あーっ、あたしが見ない間に! あたしだって」
 
 エマも反対側から入ってきて、僕は二人に温められる形で仰向けの状態を保つ。
 今日は休みだし、のんびりしてもいいか。
「二人とも、LPはちゃんと入ったからもう大丈夫だよ」
「スゥ、スゥ、アリスは今寝ております」
「むにゃむにゃ、あたしは寝てるよ」
 
 そうか、寝ているんじゃ仕方ないね。
 僕も、もう一眠りさせてもらうことにした。


 十時頃にのっそりと僕は起きて、遅い朝食をとる。食べ終わってから今日は何をしようか悩む。
   隠しダンジョンに入ろうかなーと考えたけれど、エマとアリスが買い物にいこうと言い出した。
 
「二人とも何か買いたい物があるの?」
「何か見て回りたいかなって」
「わたしも、休日の街の雰囲気が好きなので」
 
 あぁ、何となくわかる。休みの日って、何か街が明るい雰囲気なんだよな。
 ということで、僕らは三人で街に繰り出す。
 すれ違う人達が楽しそうな表情を浮かべているのを見て、街が明るい理由がわかった。
「そっか、休日は仕事が休みだから笑顔が溢れてるんだ」
「それもあるけど、多分好きな人と一緒にいられるからじゃない?」
「それもあるね」
 メリハリは大事ってことだ。
 エマとアリスが服を買うというので付き合ってみたら、だいぶ疲れるハメになった……。事あるごとに、格好がどうか訊いてくるからだ。
「ねーねーノル、どっちが似合う?」
「お兄様的には、どちらがお淑やかだと思います?」
 
 こんな質問、十回はされたと思う。
 ようやく服が決まって外に出たら、空気がめちゃくちゃ美味しい。大通りは混んでいるので避けて人の少ない小道に入る。
 すると『一周年記念!』と銘打たれた看板を出すお店を発見した。
 
「ここは何だろう?」
「んー、コウランシャブックスって書いてあるね。本屋じゃん」
「聞いたことありませんね。魔導書でも扱っているのでしょうか」
「試しに入ってみよう」
 
 記念でセールでもやってるかも、と僕らは中へ入る。そう広くない店内には本棚が並び、そこにはまばらに本が置かれている。
 この国の製本技術はそこそこ高いけど、大通りに大きな本屋があるので、そちらに本を持っていかれて経営が苦しいのかもしれない。店内にいる客は数人だった。
「いらっしゃい」
 
 店主は二十代後半くらいのまだ若いお兄さんだ。愛想が良く、僕らにニコニコ顔で寄ってくる。
「何かお探しかな?」
「いえ、一周年記念というので入ってみました」
「おおそうか! 今、本を少し安くしてるから見てってよ」
 
 店主によるとコウランシャブックスは歴史書、スキル知識関連のお堅い本よりも、もっと娯楽的なものを取り扱っているとのこと。

「うちは主に小説だよ。でも俺はポリシーがあってね、面白くないと思ったら置かないんだ」
「へえ」
 
 じゃあ本棚に置かれているのは、全部面白いってことか。でも『面白い』って人によって違うし、店主にとっては良くても僕らには合わないかも。年齢も十以上違うっぽいしね。
 そんな僕の不安を見抜いたように、店主は何冊かの本を取る。
「基本、冒険ファンタジーが多いよ。例えばこれなんか平凡な魔族と言いながら主人公がめちゃくちゃ強いし、こっちはレベル1だけど特殊な力で主人公が大活躍する。ああ、こちらも万能なポーションで異世界で無双するよ」
 
 店主の説明を聞きながら、僕はワクワクしてくる気分を止められない。
 何それ、設定だけでも凄く面白そうじゃないか!
 異世界で冒険する話って、本当に少年心をくすぐってきていいよなぁ。
「他にも面白い本は多くあるよ。どうだい、何か一冊だけでも」
「ええとそれじゃ……あ、結構お高いんですね」
 
 別に買えなくはないけれど、貧乏性の僕だと若干躊躇してしまう。
 エマが僕の顔を覗き込んでくる。
「ノル、買わないの? 話聞いてる時、とっても目がキラキラしてたじゃん」
「う、うん、絶対面白い気はするけど、ちょっと値段が」
「店長さん、じゃあそれ全部くださーい」
「本気?」
 
 本気、とエマがにっこり笑ってみせる。大人買いってやつだそうで。さすが男爵家のお金持ち令嬢は違うね。後で貸してもらおうかと考えてたら、エマが全冊僕に手渡してくる。
「はいプレゼント」
「へ? 何かの冗談でしょ?」 
「んなわけなーい。ノルがこれ読んで、もっと強くなれたら嬉しいかなーなんて」
「心からありがとうエマ! 読んだら感想文書くよ!」
「え~と、それは別に書かなくても……」


 いや書く。それもだいぶ長いのを! 
 僕はうずうずして仕方がなかったので、すぐに自宅に持って帰って部屋に篭もった。無論、作品を読み耽るつもりだ。
 本屋で受けた印象はやはり正しくて、作品はしょっぱなから非常に面白い。どんどんのめり込んで、結局朝まで一睡もしなかったほどに。
 朝、本を脇に抱えながら一階に下りる僕を見てアリスが心配そうに言う。
「徹夜して読んだのですか?」
「最高だよ! 主人公が活路を切り拓いていくのがたまらないんだ」
「楽しそうで何よりです。でも、ちゃんと休んでくださいね?」
「うん、ちょっとダンジョンに行ってくる!」
「えっ? お兄様、せめて仮眠をーっ」
 
 アリスには悪いけれど、今の僕に休息は必要ない。家を飛び出て隠しダンジョンの前まで移動すると、いつもの合い言葉を叫ぶ。
「――俺だけ入れる隠しダンジョン、こっそり鍛えて世界最強」
 
 ゴゴゴゴゴ――と開いたので中に入る。
 僕は一層にいる黄金スライムと遭遇するなり、手を伸ばしてポーズを決める。
「僕に勝てると、思うなよ」
 
 小説の中のセリフだ。どうしても真似したくて仕方がなかったんだ。
【石弾】を放ち、黄金スライムを粉砕する。
 散った体はゼリーとしても美味しいので【異空間保存】でちゃんと保存しておく。
 一層のスライムをあらかた倒すと、今日はここで引き返すことにする。二層には僕の師匠がいるけれど、会うのは後日にしよう。
 僕はダンジョンを出ると、エマの家にダッシュで直行した。
「どしたの~? そんなに汗かいて」
「はいこれ。昨日のお返しだよ」
「わっ、黄金ゼリー!? ありがとノルッ」
 
 僕はエマがゼリーを食べる様子を見守る。幸せそうな顔を見るだけで苦労も報われるってものだ。
 
「中に入って。今誰もいなくて寂しかったんだー」
「お邪魔します」
 
 僕はリビングに入るなり、昨日読んだ本の内容を彼女に話していく。
 一時間、いや二時間は僕が一方的に話していた。
 うんうん、とエマが楽しそうに聞いてくれるからつい話しすぎてしまう。

「残りの本も全部読むよ。絶対面白いに違いないしね」
「そだねー。じゃあ終わったらあたしにも貸して」
「もちろんだよ。……さて、そろそろ夕飯の時間だし帰るよ。お邪魔しました」
 
 玄関でエマとお別れのハグをする。
 その際、彼女が不思議なことを言い出す。
「ノルもいずれ、作家になれるよ」
 
 どういう意味かわからず、僕が沈黙しているとエマが続ける。

「自伝書けばいいってこと。いっぱい冒険して、それを本にしちゃえばいいんだよ」
「いやー、僕じゃ話が進まないでしょ。チキンだし、石橋を五回くらい叩いてから渡るし。向いてないって」
「そんなことないない。向いてるよ。た・だ・し!」
 
 そこでエマは僕にグイと顔を寄せてくる。随分と険しい表情に、どんな厳しいことを告げられるのかと僕は身構えた。
「ハーレムはダメ!」
 
 主人公がやたら女の子にモテるのは、エマは許せないらしいです。
 僕は案外好きなんだけどなぁ。

  ◇ ◆ ◇

 あれから一ヵ月が過ぎた。
 エマと一緒に下校している時、行列ができているお店があって足を止めた。
「凄い人気の店だなー。……あれ、ここって」
「コウランシャブックスじゃん!」
 
 僕らが立ち寄った時とは比べものにならないほど、混んでいるのはどういうワケだろう?
 看板には新冊大量入荷と書いてある。ウズウズしたので僕もすぐに並んだ。ようやく中に入ると、店主が僕らを覚えてて話しかけてくる。

「やあ、また来てくれたんだ」
「凄い人気ですね。前来たときとは全然違います」
「いやーあれから口コミで人気になってさ。客が増えたから思い切って大量に本を入荷したんだ。そしたらこんなに人が集まって、こっちも驚いてるよ」
「小説も、色々仕入れたんですか?」
「もちろんさ、面白いファンタジーがいっぱい入ってるよ」
「ぜひ、読ませてください!」
 
 僕が興奮気味に頼むと店主は嬉しそうに新刊を出してきた。
 僕はそれらを一ページ読んで、すぐに大人買いすることに決めた。

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