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自称! 平凡魔族の英雄ライフ ~B級魔族なのにチートダンジョンを作ってしまった結果~

著:あまうい白一 イラスト:卵の黄身

銀狼のお酒と1年目の祝杯

 ある日、ソフィアが食堂に行くと、

「むう」

 不思議そうな表情で、テーブルに着くユキノの姿があった。

「ユキノさん? どうかなされたんですか?」

 何か困りごとだろうか、と思って尋ねると、ユキノは不思議そうな顔をしたまま、こちらにコップを突き出してきた。

「これ、ワタシの国のお酒なんだけど。ソフィア、飲める?」
「え、ええ、飲めますが」
「じゃあ、一口、良かったら飲んでみて」
「で、では、頂きます」

 勧められるままに飲んでみた。
すると、鼻の奥をさわやかな果物の香りが抜けていった。

「……こ、これは美味しいですね。どこのお酒ですか」
「うん。銀狼の国が誇る特産品の高級熟成酒。それを魔王城で再現してみたの。このお酒は去年のこの日に仕込んだ物で、今日、ついに完成した」
「え、このお城で作ったんですか!?」
「設備は揃っているからね。先輩として長い間このお城にいる状況を活かして、やってみた」

 これが先輩の特権、と口角を少しだけ吊り上げ、指でVサインを作りながらユキノは微笑んだ。

 ……確かに魔王城は、1年で卒業する場所だから、1年熟成させる酒の実験など普通は出来ないのですよね。

 などと思いながらソフィアがお酒を味わっていると、

「結果的には美味しく出来たと思う。……少し癖はあるけど」

 ユキノの言葉に、あー、とソフィアはいまだに舌の上に乗っている刺激を感じながら、頷きを返す。

「そう、ですね。これは結構、強いお酒だと思います」

 一口で一気に体温が上がるようなレベルだ。
 吸血鬼の国でも、ここまで強いお酒はあまりない。
 そう感想を述べると、ユキノは大きく頷きを返す。

「やっぱり強いよね……。寒いところでも、コップ1杯も飲んじゃえばカーッと燃えるように熱くなるようにしたモノだから。魔王城の設備を使ったのもあって、より強烈に仕上がった。……仕上がった、筈、なんだけどなあ……」

 ユキノはそう言いながらも、首を傾げた。
 何やら納得いっていないような感じだ。

「どうしたんです? そんな不思議そうな表情をするなんて」
「うん……あれ見て」

 ユキノはテーブルの上にある瓶を指さした。
 それは中身の入ってない酒瓶だ。

「これ、さっきのお酒が入っていてね。クロノにもあげたんだけど……1本空にして、顔色も変えずに普通に歩き去って行ったから」

 その言葉で、ソフィアもユキノの表情を理解した。

「ああ……。なるほど。例のクロノさん案件ですね」
「そう。ソフィアの反応を見ても、そこまで弱いお酒じゃないって事は、分かったんだけど……」
「内臓も規格外なのかもしれませんね、クロノさん」
「うん。そうかも。……ただ、酒豪体質な銀狼としては悔しいから、明日、この熟成酒の完成祝いついでに、銀狼の風習である『飲み比べ』をしたいって約束した」

「そんな風習があるんですか?」
「ある。お酒が完成した時は、ひたすら飲んで飲んで、最後まで起きてた人が一番お酒に愛されているって決めるイベント。ワタシは結構強い方だった。だから……クロノがお酒にも強いのか、この機会に確かめてみようと思うんだけど、ソフィアも確かめるの手伝ってくれる?」
「私も、ですか? ……ま、まあそう、ですね。私としても酔ってしまったクロノさんは少し見てみたいですし、お手伝い位なら……」
「よし、決定。じゃあ、明日、食堂でクロノと飲み比べね!」

 †

 その日の夜。
 俺はユキノとの約束を果たすために食堂を訪れていたのだが、

「完成の祝杯兼飲み比べをするっていう訳で――今日は飲むよ、クロノ!」
「何でリザさんまで……というか、皆がいるんですか」

 そこには超特進クラスの皆がいた。
 というか、既に出来上がっている連中も何人かいる。

「そりゃあ、酒豪と謳われる銀狼先輩やクロノとの飲み比べなんて楽しそうなイベント、参加しないわけないだろ!」
「「そうそう!!」」

 クラスの面々は陽気な表情で酒の入ったグラスを掲げながら、そんな事を言ってくる。
 まあ、こういった環境で酒を飲むときは、大勢で飲んだ方が美味しくなることもあるか、と思っていると、

「クロノ。こっちだよ」

 食堂の中央に設けられた円卓。その一席に着くユキノが手招きしてきた。
 その卓上にはいくつもの酒瓶が乗っかっており、卓の下には更に数え切れぬほどの未開封な酒瓶が置かれていた。

「ここに、魔王城で作って、1年間熟成させたお酒がある。銀狼の特製品。因みに、向こうには予備の酒樽もあるから」

 更にユキノは食堂の端っこを見た。
 そこには大きな樽が置かれている。

「昨日完成させたっていう酒、こんなにあったんですか……」
「作れるだけ作ろうと思ったから。でも、これだけ用意したから、皆、がぶがぶ飲んでほしい!」

 ユキノのセリフに、円卓の周囲を囲んだクラスメイト達から歓声が起こる。 

「銀狼の酒って高級酒だろ」
「そんなの飲み放題だなんて、大盤振る舞いだぜ!」

 と、皆のテンションがガンガン上がっていく。
 そんな中で、ユキノは瓶からコップに酒を注ぎ、俺や、いつの間にか隣に座っていたソフィアやリザに渡してくる。

「はい、これ。何杯飲んだか、数えていくから」
「あ、はい。了解です」
「うん。では1杯目、かんぱーい!」
「乾杯!」

 ユキノの音頭に従って、皆が杯を挙げた。そしてまず俺とユキノがコップの中身をあおる。
 爽やかな果実の味がすっと舌と喉を通っていく。 
 昨日も軽く飲ませて貰ったけれど、

「うん、やっぱり美味しいですね、ユキノさん」
「わあ、クロノ美味しそうに飲むねえ。じゃ、私も飲もうっと!」

 そして、俺が飲むのを確認してから、皆も飲み始めたのだが、

「あれぇ……?」

 俺の隣にいたリザが酒を一口あおった途端、かくん、と円卓の上に顔を突っ伏した。というか、周りの連中も半分くらい、かくん、と床に尻をついていた。

「あの、ユキノさん?」
「なに?」
「リザさんや半分くらいの皆が、一発で倒れたんですけど。これ、大丈夫ですかね?」
「大丈夫。皆は幸せそうな表情をしているし、リザは単純にお酒に弱いくせに、飲もうとするだけだから」

 ユキノは冷静に言葉を返してくる。確かに尻もちをついた人たちはみんな幸せそうな表情をしていて、気分を悪くしている人はいなさそうだ。
 ただ、リザは少し表情が異なり、顔を真っ赤に上気させていて、

「い、いやあ、これは、ちょっと想定外に強すぎるというか、私が、弱いんじゃなくて、このお酒が強すぎるだけだねえ。……うん、私はもう、ギブアップかな……」

 と、フラフラと円卓の席から立ち上がる。

「だ、大丈夫ですか、リザさん」
「あ、平気平気ー。大丈夫だから、私はここの皆の健康管理にまわるよー。うん、私に任せて、皆はガブガブいっちゃってー。もしもの時は、まかせてー」

 リザは首が据わってない子のように頭をグラグラ揺らしながら言ってくる。まずは自分の健康管理をした方が良いとは思うが、大丈夫というなら大丈夫なんだろう。

「……まあ、美味しいモノですし。とりあえず2杯目いきますか。ダメな人は無理しない方向で」
「うん。そうこなくては! ペースを上げていくよ!」

 そうして、祝杯は2杯目3杯目と続く。
 4杯目で、隣に座っていたソフィアに限界が来たようで、俺の横ですやすや眠り始めた。
 そして5杯目になった頃には、酒が強いといっていた竜人のコーディも、

「ふ……俺はここまでのようだ。あとは……託したぜ……」

 と言い残して完全に酔っぱらった。
 というか服を脱ぎだして全裸になりかけたので、一旦、食堂の外に強制連行された。
 今は服を無理やり着させられて、床に転がっているが。
 そして6杯目あたりで、クラスメイトはほぼ全滅した。
 コップが動いているのは俺とユキノだけだ。

「にゃ、な、7杯目」
「あの、呂律が回ってないんで、無理して飲まなくても良いと思いますよ? こんなに美味しいお酒なんですから」
「無理はしてない。美味しいから。頭がふわふわしているだけ」
「大分無理入ってると思いますが。まあ、俺も少し体がポカポカしてきていますけどね」
「というか、……く、クロノはどうして、その程度で、いられるの……」
「いやまあ、村で結構強い酒を飲み慣れていたから、ですかねえ。このお酒、村の酒よりも弱いですし。……味はユキノさんのお酒の圧勝ですけれど」
「……? クロノの、故郷の、お酒? それって、どんなの?」
「村の爺さんたちが自分で作って飲んでいたものなんですが……あったかい料理が傍にあるといつの間にか火が付いていたり、液体が無くなっていたりしましたね」

 言うと、ユキノのコップを口元に運ぶ手が止まった。

「それは……本当にお酒?」
「爺さんたちが言うには、『これが酒!』だそうです。それをこっちに来る前に二十歳の前祝いとして1週間くらい飲み続けた事があるんですけど……なんだか一口飲むだけで物凄く頭を揺さぶられる様なものでしたけどね」

 正直、あの一週間は、気持ちよくはなかった。

「不味くはなかったですけど、そこまで美味しいと感じなかったんです。でも、このお酒は美味しいし気持ちいいし最高ですよ、ユキノさん」

 そう言うと、ユキノはふっと微笑みながら息を吐き出し、

「ああ、うん。そう言って貰えると、作った甲斐があった。……ただ、ワタシも、クロノのところのお酒も飲んでみたいけど、飲んだ瞬間が怖くなる奴だなあ」
 言いながら、ユキノはふわあ、と小さく欠伸し、

「うん、無理。今回はギブアップ。というわけで、ワタシは、ふて腐れつつ諦めて、ダウン、するので、そこで寝るね」
「え? あ、ちょっとユキノさん?」

 そうして、俺の膝の上に頭を乗せて横になり、

「これが、銀狼の風習の、勝者のあか……し……」

 呟きながら、すやすやと寝始めてしまった。

「ううーん、なんだろうなあ、この状況。……まあ、いいや。俺ももう少し飲んだら、軽く寝るかなあ」


 そうして次の日の朝っぱら。
 魔王城の食堂で酔っぱらって、クロノにもたれ掛かるように眠る幾人かと、彼らを囲むように幸せそうな表情でダウンしている超特進クラスの面々の姿が確認されたのだった。

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