講談社ラノベ文庫

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第7回 講談社ラノベ文庫新人賞

講 評

  • 榊一郎(ライトノベル作家) 講評

     まずは全体的な印象から。
     ここ数年、『文章力の底上げが成された』的な事を何度も書いてきたが……今年の最終選考作を見るといずれも少し読みにくさが目立った。視点揺れは勿論だが、一作の中で表現が統一されていなかったり、一度読み返してみれば確実にこうはならないだろう──という表現が幾つも散見された。
     私も応募原稿を投稿する際には、締め切り日当日、二十四時間営業の本局まで出向いて突っ込んだ記憶があるので、皆さん、時間が無いのは痛い位に分かる。分かるが、それでも今後の投稿者の方々には書きっぱなしではなく一度は読み返してみる事をお勧めする。
     ライトノベルは色々揶揄されるがそれでも表現形式としては小説であり、文章の集積体である。難解な文字や高尚とされる様な表現を多用する必要は別に無いが、読み手が引っかかる様な文章にはしないに越した事は無い。

      読み手をあまり意識していないという意味では、三作品共、キャラクター造形や配置、物語構造にもそうした部分が散見された。物語として何ら意味を持たない(少なくとも私には意味が見いだせなかった)叙述トリック的(?)な技法を使っていたり、物語が全体的に平坦すぎる構造だったり、キャラクターが多い割には表面的・類型的に過ぎて、掘り下げが殆ど無かったり、最後に駆け足で付け足してみたり。

     どの作品も目立った破綻はないし、文法的な間違いが多いという訳でもないのだが、読み手が違和感無く読み進めていけるように、という配慮があまり感じられなかった。これらは恐らく書いて何日か放置した上で、読み直してみれば気がつく様な部分だと思われるので、その意味でもやはり自分で読み返してみる事をお勧めする。

      『夢の続きを。』は今回最終選考に残った三作の中では最も典型的なラノベであり、いわゆる「オチもの、ハーレムもの」である。
     キャラクター造形、配置、いずれも基本を押さえている感じで悪くない。
     初期に堂々と狂言回し的なキャラクターの口からハーレムものとしての宣言に等しい台詞が出てくるのはある意味、インパクトがあって清々しい。だが、それ以後が消化試合的な流れになってしまっているのが少し惜しい。
     日常もの、とでも言うのだろうか。とにかく大きな山谷がある訳でもなく淡々と進んでいく印象。キャラクターもヒロインは健気で可愛いが、他のキャラも含めて、全体的に目立った特徴に欠ける──と私は感じた。が、この辺は趣味の違いの範疇かもしれない。
     改行がやたら多い、文章がリズムに乏しい等の多少、文章的な問題は在るものの、総合的には、キャラクター関係の基本を忠実に押さえている、という意味でもこの作品が最も読みやすかった。

    HERO SHOW!!』は、私個人としては大好きなタイプのお話である訳だが、それだけに審査の眼が厳しくなってしまった印象は在る。
     キャラクターそのものは悪くないのだが、ステロタイプに過ぎる上、作者もそれを隠そうともしていない(個性付けの為のキャラ造形やそれを表に出す表現があまり無い)ので、最後までキャラクターの容姿がはっきりと脳裏に描けなかった。
     基本は群像劇であり不思議要素無しのアクションものなのだが、その種のアクションものとしてはあまりにガジェット(銃、車、爆弾、コンピュータその他)の扱いが雑であり、キャラクターも掘り下げがあまり無いままに並べられていくので、没入しにくいというか、少し離れた所から映画を流し見している様な印象が強かった。
     倍の分量で、キャラクターの背景がもっとしっかり作り込まれていれば、かなり印象は違ったかもしれない──が、まあこれは規定枚数などを考えると無理な注文か。恐らく作者が泣く泣く色々切って詰めた結果だと思われる。

    →ぱすてるぴんく。』は……何というか、『インターネットが生まれた時から当たり前にある世代の恋愛』を描く、という作品コンセプトの様だ。その部分は挑戦的で着眼点も良いと評価したい。
     ただその最も特徴的な部分(恋愛ものの最も美味しい、出会ってから親密度を増していく部分)をすっ飛ばして、妙に重いというか、『リア充』だの『ネットを徘徊する悪意』だのに対する主人公の恐怖、嫌悪感や敵意を殊更に強調しているので、バランスが悪い印象がある。恋愛ものなのにルサンチマンの垂れ流しに終始しているというか。
     同時に主人公とヒロインが微妙に気持ち悪いというか、感情移入出来ないキャラ造形になっていて、悪い意味での『中二病』そのものに見えてしまう。
     前述の通りコンセプトは悪くないし、起承転結、紆余曲折、の物語構造という意味では非常にオーソドックスな造りの作品なのだが、多分に読み手を選ぶキャラ造形、配置になっているところが、勿体ない印象だった。

  • 藤島康介(漫画家) 講評

    今回は少々厳しい結果になってしまいましたが、優秀賞の『夢の続きを。』はキャラクターは立っていて楽しく読めました。あとは主人公がレールの上を走らされている感じをなくすために、力強く自分の意思で戦えるようになると物語の爽快さが出ると思います。
    後の2作品『HERO SHOW!!』と『→ぱすてるぴんく。』は愛されるキャラクター作りを心がけるとともに、第三者的なチェック機能を自分の中に持つこと、あるいは実際に第三者に読んでもらうことが必要と感じました。自分が書きたいものを書くのは基本ではありますが、自分が書きたいものを読者に向けて書くというのがさらなる基本です。キャラクターの行動原理がぶれていないか、表現におかしなところはないか、展開が伝わりにくくないか、よく考えながら書くようにすると良いと思います。

  • ツカサ(作家) 講評

    →ぱすてるぴんく。
     文章力があり、高校生のリアルな感情、生活が綴られていて、とても読みごたえはあったと思います。
     ただラノベ的なデフォルメが少ないので、生々し過ぎる感じもあり、読み進めるのが辛い部分もありました。もっとヒロインに描写を割き、楽しいと思えるシーンも意識的に描いて欲しかったです。
     もちろん「苦しい」部分もこの物語の魅力ではあるので、それを抑えるということではなく、より上手い見せ方を考えて欲しいと感じています。
     そうして本当に伝えたいことを読者に届けられるようになれば、今後はラノベの枠に拘らず、広い分野を見据えて活躍していけるのではないでしょうか。

    HERO SHOW!!
     骨太な物語をしっかり描けていたと思います。けれど今あえて「ヒーロー」という題材を扱うのであれば、新しいアプローチが必要なのではないかと感じました。
     現時点ではセオリーを崩すところ、期待をいい意味で裏切る点がありません。
     王道を往く以上、展開やキャラクター造形が似通ったものになるのは仕方がないことだと思います。しかし能力や敵、社会構造の特殊性などでオリジナリティを演出することは可能です。
     そうした「注目してもらうための努力」をすれば、この作品は一気に良くなるのではないでしょうか。

    夢の続きを。
     ストレートなハーレム系ラブコメで、とても楽しめて読めました。作中に漂うほわほわとした空気感に癒されました。
     無理にシリアス展開を入れず、ラブコメの範疇で一本を書き上げたことは素直にすごいと感じます。
     ヒロインのいなりはとても可愛くて、多くの読者が好きになれるキャラクターでしょう。「おいなり好き」もこのぐらいであれば生々しくなくてギャグにもなり、面白い個性だと感じます。
     ハーレム路線は確定しているようですが、私個人としては、もっといなりとのイチャイチャやラブコメが見たいというのが本音です。新たなヒロイン投入も大事ですが、現状のヒロインも今以上に大切にしてあげてください。

    総評
     三本とも基礎的な部分は問題ありません。ただその上でどう独自性を出していくのか、どうやって読者に楽しんでもらうのか、という意識の差は大きくあった気がします。
     そういう意味で私が今回読んで一番良いと思ったのは『夢の続きを。』です。単にラノベ的だから良いのではなく、読者のことを考えたバランス感覚が、内容を上質なラブコメに仕立てていると感じました。

  • 猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評

    第7回講談社ラノベ文庫新人賞には、既報通り348作品のご応募をいただきました。みなさんの渾身の力作をお送りいただきまして、編集部一同重ねて御礼申し上げます。
    さて今回の第7回では、優秀賞1作品、佳作2作品、計3作品が受賞という形となりました。大賞受賞作品が出なかったということが非常に残念でありましたが、編集部として大賞作品をなるべく輩出したいという点は変わりございません。
    作品個々の評価等につきましては、特別審査委員の先生方の講評をご覧いただきたく思いますが、全体としてやはり例年より小粒であったかという印象がありました。
    ライトノベル世界がほぼ一般的にも認知され「ラノベ」という用語が日常的になったと感じるこの頃でありますが、それ故に商業から投稿サイト含めて数限りない作品が日々登場していることになります。
    そのような広がりの中にあって、何を目指して作品創りに取り組むべきかという問題がますます重要になってきていると感じます。流行のテーマを追っても、他の似たような作品に阻まれ、ややもするとつかみかけた流行すら終わってしまうこともあり得るなか、やはり突き詰めるべきことは、当たり前のことかもしれませんが「自分は何を書くべきか」という問いかけ、そして「自分が書きたい作品の魅力」、現時点で世の中に出ていないため、その魅力が著者自身にしかわからない「その作品の根本の楽しさ」を「どうやって伝えていくか」「作品のどこの部分を、どんな風に読み手に喜んで貰うのか」というこれまた本当に基本的な部分の突き詰めなのではないでしょうか?
    そして、敢えて皆さんに問いかけたいことがあります。
    「これからあなたが書こうとしている作品は、あなたのこころのなかに存在する《秘密の箱》のなかから取り出したものですか? 《いつも開けている箱》のなかから取り出した、あえて申し上げれば、あなたにとっての〝書きやすいもの”ではありませんか?」
    ──次回第8回講談社ラノベ文庫新人賞でも、みなさんの熱い心とモチベーションを滾らせた“ラノベ魂”溢れる力作をお待ちしております。

2017年11月8日  講談社ラノベ文庫編集部

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