第6回 講談社ラノベ文庫新人賞

講 評

  • 榊一郎(ライトノベル作家) 講評

     毎年同じような事を書いているので心苦しいのだけれど、やはり全体的に文章力の底上げが行われているのか、最終選考に残るレベルの作品に関しては、読みにくい作品というものはほとんど無い。これは今年の第六回も同様だった。
     どの作品も流暢な語り口というか、ストレス無く読める。小説を書き慣れた者の文体だというのがよく分かる。口語調で取っつきやすいのか、一人称文体の作品も毎年半分近くを占めるが、三人称文体で読みやすい作品も増えてきた。

     ただ、その一方で『文章力が揃って一定水準に達している』という事は、それを道具として用いてどれだけ面白そうな世界や登場人物を描き出せるか、という部分が争点になってくる。

     ライトノベルが大量に刊行され、「小説家になろう」等に代表されるWEBサイトに大量の作品が掲載される昨今、世界観や登場人物で差別化を図るのはかなり難しい。
     どうしても差別化の為に、一点突破的な設定なり構成なりにしがちだが……それを活かすには、細部の作り込みが重要になってくる。
     しかし、その細部――即ち、その作品のキモである部分の考証や構成が甘い、あるいは、逆に必要以上に詰め込みすぎたり、奇をてらいすぎたりして、読者を置いてきぼりにしかねないという部分が、最終選考作品でも幾つか散見された。
     勿論、こうした『甘さ』や『やり過ぎ』は私を含め、既にプロとして働いている者でも気を抜けばやらかしかねないし、常に自らを戒めねばならない点である訳で……この点を含めた高い完成度を投稿作に求めるのは少々酷かもしれない。
     だが、出版不況である昨今、商業出版作品で求められる水準は上昇し続けているので、この辺りは敢えて神経質になっておくべきかとも思う。

     逆に言えば昨今の新人賞の最終選考作品は、こうした減点方式でなければ差がつけられない程に水準が高くなっているとも言える。

    ドラどら王子の嫁選び
     何事にも強気の放蕩王子が、花嫁候補者達とドタバタする話――分かり易いハーレムものであり、明確な『俺強ぇ』ものであり、ある意味で王道的なライトノベルである。ヒロインである花嫁候補者達もバラエティに富んでいて可愛らしく、キャラクターとしての描き分けも出来ている。
     ただ、短い間に色々と詰め込んでいるせいか、一部のキャラクターの言動にぶれがあったり、世界観的に説明しきれず、違和感を醸し出している部分が散見された。刊行の際にはこの点に留意して欲しい。

    巨乳天使ミコピョン!
     キャラ立ちが非常に優れており、楽しく読めた。ある意味で典型的とも言うべき『落ちモノ』作品――『ある日、女の子が眼の前に落ちてきて』という構造だが、色々と小技が効いており、読み手を飽きさせない。今回の五作品では最も読みやすかった。
     逆に言えば、いかに表面上は捻っているとはいえ、基本がよくあるネタやキャラクターであるため、読み手の予想を悪い意味で裏切ってしまう部分が幾つかあった。
     キャラクター造形にも関わる部分なので、これを修正するのはかなり難しい気がするが、やはり刊行の際には何らかの対処をして貰うと、より作品の魅力が上がると思われる。

    白翼のポラリス
     いわゆるボーイミーツガール、ジ●リ作品にも似た空気のある作品。非常にジュブナイル小説として正統派。飛行機を主要なガジェットとして出している作品で、世界観もそれを元に組み立てられている作品。独特の世界観という意味では分かり易くこれが打ち出されているのは好感が持てた。
     しかし作中における航空機やそれにまつわる各種ガジェットの扱いが多分にご都合主義に偏っている、その一方で飛行機に詳しくない人間が読むと意味不明の単語がほとんど説明も無く使われている、等々、突っ込み所が多く、独自世界観を描き出す上でのバランスにやや難があった印象。

    ディヴィジョン・マニューバ 英雄転生
     いわゆるパワードスーツもの。これに転生ものと、『一見最弱に見える主人公が実は最強』パターンを加えた複合的コンセプトの作品。個人的には大量に描かれたこの系統の作品は少々食傷気味になっていたのだが、そういったマイナスの先入観を差し引いても、上手く描かれており、最後までほとんどだれる事無く読めたのは見事。
     主人公とヒロインの関係性も、オーソドックスながらも、設定的にきちんと捻りが入っていて、ラブロマンス部分が非常に微笑ましい。
     全体的に完成度は高いのだが、強いて問題点を挙げれば、師匠のキャラ立て、既存のパワードスーツもののパターンを踏襲しすぎている部分がやはり引っかかった。完成度はプロの既存作品と比較しても遜色ない分だけ、そこが惜しい。

    自殺するには向かない季節
     この種の思春期の少年少女を登場人物として『自殺』をテーマにした作品は、作者の自意識が前面に出てくる事が多く、面白いかどうかはそのセンスに依存する部分が大きい。このために作品は大当たりか、大外れのどちらかで中間が無い、といった印象で、正直に言って、読み始めるのに少し躊躇があった。
     結果としては前者で、非常に上手くテーマを扱った上で、綺麗に話をまとめている。
     登場人物も、独特の、良くも悪くも現実味のある(ありすぎる)キャラ造形と描写になっており、ライトノベルとして見た場合は生々しすぎる印象があるが、これもまた作品の雰囲気を構成するのに役立っており、過不足が無い。
     およそ欠点らしい欠点が無い作品。強いて言えば恐らく続編が書けない構造とテーマであるが、それを考慮してもやはり完成度が高いという事で、大賞に選ばれる事となった。

  • 藤島康介(漫画家) 講評

    今回は最後まで読ませる力がある作品が多く、レベルが向上していることを感じました。
    大賞作品はタイトルから最初警戒したのですが、読み進めてみると先が気になるようになり、最終的には爽やかな読後感まで得られるという、当初の予想を覆すことになり、小説の楽しさを実感させていただきました。
    個人的にはファンタジー世界を作るときに現実にあるものを入れる場合はそのための説得力のある設定を構築するなど、もう少し気を遣っていただけると、違和感なく物語に入り込めるようになると思います。
    次回もワクワクする作品に出会えることを楽しみにしています。

  • ツカサ(作家) 講評

     今回、初めて選考委員を務めさせていただくことになったツカサです。最終候補に残った五作品はそれぞれに独自の魅力があり、とても楽しく読むことができました。
     もちろん「もったいない」と感じる部分もありましたが、それは改稿で何とかなりそうなものばかりだったので、本になった際は今よりもっと面白くなっていることでしょう。

     ただ逆を言うと、そんな「ちょっとした部分」を修正していれば、作品の評価が大きく上がっていたということでもあります。勢いのまま作品を書き上げることも大切ですが、読み直して手を加えることも重要です。これから投稿される方は、可能な限り今の原稿に時間と情熱を注いでほしいと思います。

    巨乳天使ミコピョン!』は五本ある最終候補の中で、最初に読んだ作品でした。理由はタイトルに惹かれたからです。ありそうでなかったというか、一周回った感じのストレートさと吸引力がありました。
     ただ実際に読んでみると期待した要素(軽さ、ラブコメ、お色気、ギャグなど)がちょっと物足りなかったです。
     一部の魅力的なキャラクターが使い捨てになっているのも残念でした。
     けれど直すべき部分ははっきりしていて、そこを修正すれば、とてもいい作品になると思います。
     ぜひ「タイトルの期待を裏切らず、なおかつ想像を超えていく作品」に仕上げて欲しいです。

    ディヴィジョン・マニューバ-英雄転生-』は非常に完成度が高く、素直に面白かったです。
    この作品はきちんと最後まで読めば、多くの読者が満足感を得られると思います。ただサブタイトルにある「転生」が起こるまで――序章にあたる部分が、少し辛かったかもしれません。
     転生して以降、真面目でハードな世界観だと把握した後は物語にのめり込めたのですが、状況が分からない中だと独特な設定や技名に戸惑ってしまいました。
    しかしそういう部分を差し引いても、転生してからが面白く、様々な流行りの要素も取り入れていて、一読者として楽しめました。物語の密度、ラストの盛り上がりも十分だったと思います。
     一つ心配なのは、既存作品に同系統の物語が多くあることでしょうか。それらと同じ舞台に立った時に負けないよう(埋もれないよう)、色んな工夫を凝らす必要はあるかもしれません。

    白翼のポラリス』は、文章が上手く丁寧で、ストーリーも王道。空と海を舞台にしたさわやかな物語だったと思います。
     けれど内容が王道であるだけに、違和感のある設定や強引な展開など、足りない部分が目についてしまいました。
     そうした点を修正したり、上手く誤魔化してくれれば、長編アニメ映画を見た時のような満足感を得られる、素晴らしい王道作品になると思います。

    自殺するには向かない季節』は好き嫌いで言うのであれば、「とても好き」な物語でした。
     文章やキャラクターの描き方、距離感、どれもすごく心地よかったです。
     内容も今流行り(?)と言えるタイムリープ+恋愛(作者さんは恋愛ものだとは言わないかもしれませんが、私はそう感じました)もの。もったいないのは、それがタイトルから伝わらないことでしょうか。
     ループ、恋愛(青春?)という要素をタイトルではっきり示し、こうした物語を欲している層にアピールすれば、高い評価を得られるのではと感じます。
     とても応援したい作品です。ぜひ多くの方々に読んで欲しいです!

    ドラどら王子の嫁選び』は、タイトル通り花嫁を選ぶということだけをテーマにした潔い作品でした。
     キャラクターはそれぞれ魅力的に描かれていて、誰が誰か分からなくなるということはなく、皆「かわいいな」と思います。
     ただ、ところどころ主人公の判断や行動に反発を覚える部分もあり、強引さも感じます。
     結論が最初から見えているせいでラストの達成感が薄いのも、非常にもったいなかったです。もっと目的達成のハードルを上げ、最後までハラハラさせて欲しかったですね。
     けれどそれだけ伸び代があるということでもあり、本になった時が楽しみな作品の一つです。

  • 猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評

     第6回講談社ラノベ文庫新人賞には、総数373本のご応募をいただきました。作品をご応募いただきましたすべてのみなさんに、御礼を申し上げます。
     今回の応募作品全体を振り返るに、昨今のライトノベルにおける流行を念頭に執筆された作品が、さらに増加中であるといった印象がありました。このような傾向は、講談社ラノベ文庫の基本方針であるところの「魅力あるキャラクターが紡ぐ王道エンターテイメント作品を求める」という点にも合致するところであり、今後がさらに期待できると考えております。
     毎回通じてのことですが、今回も選考の最も初期の段階から、できる限り多くの作品を編集部員が直接目を通しての選考を行いました。結果的に最終選考に5作品が進出しました。選考委員のみなさまと臨んだ最終選考会では、大きな異論なく、結果的に最終選考に残った5作品がそれぞれ大賞、優秀賞、佳作を受賞するという結論に到りました。個々の作品の評価等につきましては、選考委員のみなさまの選評を参考にしていただければと思いますが、受賞5作品はそれぞれ、ライトノベル世界の流行を鑑みながら、書き手として目指したいこと、キャラクターについて見せたい部分も視点に捉えた作品作りが出来ていると考えております。
     また、こちらも毎回通じてのことですが、受賞5作品につきましては、原則として発刊いたします。どうぞご期待ください。
     第7回の募集もすでに始まっております。みなさまの「ライトノベル」への熱い想い、脳裏に浮かんだその勇姿、活躍ぶりをぜひ伝えたいキャラクター達の物語を紡いだ力作、まだ見ぬ傑作を心待ちにしております。みなさまの思いのたけを、編集部全体で受け止め、最高の新人賞を目指していきたいと考えております。
     講談社ラノベ文庫新人賞、次回もぜひご期待ください。

2016年12月5日  講談社ラノベ文庫編集部

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