第2回 講談社ラノベ文庫新人賞

講 評

  • 藤島康介(漫画家) 講評

    5作品の中で私は『彼と彼女の不都合な真実』が物語として一番面白かったと思います。選考としてはそれに加え、『リップオフ!』、『神様のお仕事』の3作品が上位を争いました。

    優秀賞になった『彼と彼女の不都合な真実』はキャラクターがみんな信念のみに従って行動していて、その点で揺ぎが無い感じがしていいと思いました。しかし文章表現にわざわざ難しい言葉を選んでしまう傾向が見え、それが作品の魅力を損なっていたのは残念です。編集と協力して今後の成長に期待したいです。大賞の『神様のお仕事』は主人公が物語の構成のために動かされているように見えてしまい、動機付けの部分で未完成さはありましたが、ライトノベルらしい物語、キャラクター設定とそれを表現する文章力など安定感と全体のまとまりが良く、最後まで読者に読ませる力がありました。 優秀賞のもう1作品、『リップオフ!』はキャラクターに勢いはありましたが、そのインパクトに勝てるだけの行動原理が備わっていないように思えますし展開もすごく唐突です。題材になっている「自転車」についても、どうしても特殊能力とのバランスが悪い感じが拭えませんでした。しかし、ヒロインが非常によく、5作品の中では存在感、魅力が一番ありました。 佳作の『モブキャラ仕様のクラフトマン ~彼女とエロゲと擬人化バッチ~』は「エロゲー」という着眼点は面白いのですが、ラスボスになる友達の思考過程とか納得がいきません。特殊性を出すのでしたら最初から出していかないと、豹変したように見えてしまいます。『俺達の中二病は、まだ始まったばかりだ!』はバカバカしくていいところはあるのですが、主人公のトラウマが説得力を欠いており、そもそも何をしたかったのかが分からないのがちょっと問題かな、と思いました。

  • 平坂 読(ライトノベル作家) 講評

    まず賞全体の印象としては、前回よりもレベルが高かったと思います。また、最終選考に残った五作品の方向性がばらけていたのも良かったと思います。五作品それぞれが長所とともに問題も抱えていたため、選考委員の推したい作品、そして推したくない作品がバラバラになってしまい、選考会は難航しましたが。 絶対に大賞を選出しなければならないと決まっていたため、最終的には最も粗の少なかった作品が消去法的に大賞になりましたが、それ以外の作品もそれぞれ魅力的ですので、読者様方におかれましては賞の等級はあまり気にせず自分自身の目で確かめていただければ幸いです。

    以下、作品ごとの寸評ですが、あくまでも投稿時点(出版にあたっての改稿前)の原稿に対するものであることを御留意ください。

    リップオフ
    私がイチオシだったのはこの作品でした。候補作五本の全キャラクターの中で、本作ヒロインの魅力は飛び抜けていたと思います。ストーリーも、粗はあるもののミステリ要素を含むメリハリのある構成は「読者を驚かせよう、楽しませよう」という意欲が強く感じられ好印象でした。お色気やバイオレンスもありますが過度に生々しくなく、全体的に軽妙な雰囲気の青春ストーリーに仕上がっていると思いました。
    課題としては、終盤のどんでん返しにポカーンとなってしまったので、もう少し読者に優しく。また、物語の中心にある 「自転車泥棒」という題材は適度に卑近で作品の雰囲気とマッチしているのですが、「これでしか話が成立しない」というほどでもないので、作中で自転車というアイテムが印象的に使われていたりするとさらに良くなると思います。

    彼と彼女の不都合な真実
    地の文も会話文もとにかくクドく、カッコつけるあまり変な表現も散見され、読んでいて疲れた……というのが正直な感想です。ストーリーラインは割とシンプルなので、もう少し読み味も軽くすべきではと思いました。ただ、他の作家の影響が強く見受けられますが、この饒舌な文体が作品に独特の味わいを与えているのも事実。ちょっと今回は背伸びしすぎだと思いますが、背伸びすること自体は別に悪くないので、編集と力を合わせての改稿および今後の成長に期待します。

    モブキャラ仕様のクラフトマン ~彼女とエロゲと擬人化バッチ~
    設定が面白かったです。エロゲーやギャルゲーを題材にした作品は多いものの、ここまでピーキーなのは珍しいです。しかし、ピーキーすぎてある程度読み手を選んでしまうのは仕方ないにせよ、それを差し引いても不親切な点が目立ちました。多分、ギャルゲーの知識がない人が読んだら楽しめないどころかまったく意味がわからないと思います。登場人物達の思考にも正直ついていけませんでした。五作品の中では最も改善すべき点が明確な作品ですので、出版される際に大化けしていることを期待しています。

    俺達の中二病は、まだ始まったばかりだ!
    最近目立つ「厨二病」や「ぼっち」や「オタク文化」を題材にした現実ベースの青春ラブコメ路線で、ストーリーはよくまとまっておりキャラクターもそこそこ立っていましたが、同じ路線の既存の作品群と比べ薄味だと思いました。実際の作者さんのバックボーンがどうなのかは知りませんが、なんというか「切実さ」「生々しさ」のようなものが感じられず、良くも悪くも流行を表面的に取り入れた優等生的作品という印象です。素材は好物なのに味付けが薄過ぎて私のストライクゾーンからは外れてしまいましたが、逆にこの味付けが好きという人も多いだろうなとも思います。商業出版にあたりどんな方向性で改稿するのかは分かりませんが、現状の軽めな路線を貫くなら、「レイプ」という単語を軽々しく使わない方がいいとは思います。

    神様のお仕事
    キャラクター、設定、ストーリー、どれもソツなくまとまっており、この作品ならではの突出したものはありませんが大きな欠点もなく、完成度は高いと思いました。

  • 大沼 心(アニメーション監督) 講評

    大賞に推させて頂いたのが『神様のお仕事』です。全てが丁重に描かれており、そのぶんパンチが弱いと言う難点が有りますが、それを補うだけのキャラ造形、構成のうまさ、文章回しが有り、読後感も広がりを感じさせる安定した作りで非常に好感が持てました。

    それと並ぶぐらいの出来に感じたのが、優秀賞の『彼と彼女の不都合な真実』でした。今時の感じであり展開も良く、特に最初のヒロイン登場でココロを捕まれたのですが、中盤から多少ゆるく感じてしまったのと、キャラの造形がチートすぎてインフレを起こしてしまい気味なのが気になりました。キャラの制約をむしろ展開に変えるなどの捻りが欲しかったです。

    次に優秀賞の『リップオフ!』はTVシリーズと言うよりは二時間の劇場作品と言った趣で短編として見ると纏まりが有ると思います。ですが「自転車」という身近な物を題材にしている割には話が突飛であり、リアルにいきたいのかそうではないのかラインに筋が見えづらかったのが自分的にはマイナスでした。キャラとストーリー含めて、もっと突き抜けちゃっても良いのかなとも。

    佳作の『モブキャラ仕様のクラフトマン~彼女とエロゲと擬人化バッチ~』は非常にピーキーにお客さんを選ぶ作品になっていたと思います。「エロゲ」と言う一般的では無い部分に対してのフォローが薄いのが一番気になりました。しかしながら、そのツボがわかる読者にはとても良い物を持っていると思います。少なくとも自分は狙い撃ちされているぐらいの気分には感じました。頑張って欲しいです。

    最後に佳作の『俺達の中二病は、まだ始まったばかりだ!』は、やりたい事は非常に伝わってくるのですが、如何せんそれが読者の方に向けられているのかなと感じました。中ニ病と言う、人によっては自己中にしか見えないキャラ造形を如何に納得させながらも面白くドラマに組み立てるか。そこに一番苦心して欲しかったです。

  • 渡辺 協(講談社ラノベ文庫編集長) 講評

    今回は総数333作品を応募頂きました。第二回ではありますが、創刊後に締め切りのある最初の応募となり、応募者の皆さんからレーベルのイメージを的確に捉えて頂いた作品を本当に多数、頂きました。またレーベルの既刊作品を研究して、より内容の幅を広げようと意図した良い意味での挑戦的な作品も頂くことができました。新人賞としては、まさに願っていた展開です。ありがとうございました。

    第一回に引き続き、今回も最終的には編集部が5作品を選び、選考委員による審査をいたしました。審査は前回よりも白熱して、上位3作品を選びかねる状況になりました。選ばれた作品はそれぞれ明確な特色があり、その是非を選考委員がそれぞれプロとしての立場で微妙に違った評価をする、という審査内容としても興味深い展開でした。

    結果として大賞1作品、優秀賞2作品といたしましたが、以上の様な審査を経ての結論です。作品についての本当の評価は今後に予定している出版後に読者の皆さんにゆだねたいと思います。

    佳作を含めて最終選考作品は全て、講談社ラノベ文庫で順次刊行を目指します。

    第一回の講評でも書かせて頂きましたが、ライトノベルの世界は確実に順調に広がっています。10カ月前、講談社ラノベ文庫こそが最後のレーベルではないかと思っていたのですが、その後もまだまだ新規レーベルは引き続き創刊されています。編集部としてはさらに新たな地平を切り開く努力をしていきます。どうか応募者の方々も、また次回、第三回新人賞への挑戦をお待ち申し上げます。

2012年10月18日  講談社ラノベ文庫編集部

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