第10回 講談社ラノベ文庫新人賞

講 評

  • 鏡貴也(作家)講評

    総評

    大変たのしく読みました。
    今回は三本だったのですが、それぞれよさが違い、とてもまとまった作品でした。
    読みながら思ったのは、ライトノベルの在り方が変わったなぁということです。
    僕は『伝説の優者の伝説』というシリーズが出世作だったのですが、20年前の当時は、勇者という言葉を作品に出すなんてのは珍しいことだったし、その『勇者』という言葉を物語の仕掛けにもってくるのも珍しかったのですが、いまでは『勇者』という言葉の説明をしなくても設定にもってこられる時代がきました。
    そんな中で、しかし、今回は目新しい仕掛けがあるものもあり、とても楽しく読めました。


    『異世界監督、シナリオ無双!』
    主人公がなにも出来ない、という設定なのに、その設定がうまく機能してぐいぐい読ませるのすごいなと思いました。
    展開も速く、この話の続きを読んでみたいと思いました。


    『魔王と魔女の英雄神話』
    綺麗にまとまっていて、きちんと読ませる作品でした。
    女の子がかわいく、それについてもきちんとまとめあげており、期待を裏切らない出来になっていると思います。


    『君と一緒にごはんが食べたい』
    少年少女の青春がよく描けていたと思います。文章もうまく、読ませるものになっていました。
    しかし、売りが明確ではないのに『お弁当、ピアノ、ラグビー、ラブコメ、青春』と焦点が多く、ここはひとつ、どうしても見せたいものはなにかを絞ると、もっとうまく見せられるのではないかと思いました。

  • 猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長)講評

    第10回講談社ラノベ文庫新人賞にご応募いただきましてありがとうございました。旧ラノベチャレンジカップを引き継ぐ形で、今回から年2回の選考となりましたが、これまでと変わらず、みなさんの熱い想いを込めた多くの作品にふれることができました。

    受賞3作品のうち2作品は、「異世界」をテーマにしたファンタジーでした。異世界ものはたくさんありすぎる、もう飽きてきている、そろそろブームが終わる……このように言われつづけてもう6~7年になるでしょうか? しかし現実には「異世界もの」はWeb小説の隆盛もありまだまだ人気ジャンル筆頭であると言えます。――「アイデアはほぼ出尽くした」と言われてからが本当の勝負時なのかもしれないのです。「異世界」という創作ジャンルは、まだまだいろいろなスタイルを飲み込んでいくことのできる懐の深いものなのだろうな、という思いを強くしました。

    また、1作品は昨年「全ての日本を熱くした」ラグビーを取り扱った作品でした。小説、広義に言い換えると「文字エンタメ」は、作者の考え方ひとつで常に「流行」と向き合い時代性を最速で取り入れて制作できる、いい意味での身軽さがおおきな長所であると考えます。《いま現在人気のもの》を取り入れつつ、《常に尊重されるもの》について思いを馳せる、という意気込みで作品作りに挑んでいただきたいと思います。

    ライトノベルの世界で新人賞を募集しておりますと、「どんなテーマで書けばいいのか?」「次に流行るのはどんなものか?」――このようなご質問をいただくことが多々あります。いただいたご質問の趣旨からは少々外れるのですが、その際いつも申し上げていることがあります。

    「自分が書きたいこと」ではなくて「自分が書くべきこと」をみつけてください。
    自分自身を一番知らないのは自分自身です。

    みなさんの力作、意欲作、自信作、いつもかわらずずっと、お待ちしております。

2020年6月26日  講談社ラノベ文庫編集部

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