第1回 講談社ラノベ文庫新人賞

講 評

  • 藤島康介(漫画家) 講評

    5作品の中、突出したものはなかったのですが全体的にレベルの高い作品が集まったように思います。
    私の中ではきちんと物語を作っていた『魔法使いなら味噌を喰え!』と『純潔戦記ドウテイオーvs.SE-X』両作品のどちらかが大賞候補でしたが、最終的に大賞となった『魔法使いなら味噌を喰え!』はテーマを読者に納得させることや主人公のキャラクターを動かしきれていないところなど未完成な部分はありましたが、テンポが良く「味噌」という題材が新鮮。発想力に今後の伸び代を感じました。また優秀賞の『純潔戦記ドウテイオーvs.SE-X』は全体的に荒削りですが主人公のキャラクターの強さはダントツでした。しかし物語の最終着地点を作りきれていないのが最後まで尾を引いてしまっていたのがもったいなかったです。今後に期待したいです。
    佳作の『魔王女交友録』はキャラクター付けがとても上手で目を引きました。しかしストーリーに関してどこを盛り上げたいのかわからないまま、平坦に進んでおり、“ここを盛り上げるためにこの話を作っている”のではなくて、“これを出したいからこの話を作っている”ように見えてしまったのが残念なところです。『デッドエンドラプソディ』は設定はがとても良く惹きつけるものがありましたが、ストーリーの主軸を失っていたのが作品全体に響いてしまっています。

  • 平坂 読(ライトノベル作家) 講評

    魔法使いなら味噌を喰え!
    萌えあり、コメディありで、バトルなどの盛り上げるところではしっかり盛り上げる、大変バランスの良い物語でした。主人公、ヒロイン他、サブキャラクターも良い味を出していると思います。世界観も、オーソドックスな現代ファンタジーに一味加えた、わかりやすさとインパクトを両立したものになっています。ただ、「味噌」というモチーフのインパクトこそ大きいものの、それがあまり物語に生きていないのが欠点です。「これ、べつに味噌じゃなくてもよくね?」という……。物語の終盤あたりに「だから味噌なのか……!」と唸らせてくれるような仕掛けがあれば、評価は跳ね上がったと思います。

    純潔戦記ドウテイオーvs.SE-X
    タイトルを見た瞬間にふざけんなと思いましたが、実際に読んでみると決してイロモノ狙いの不真面目な作品ではなく、非常に真っ当な熱血ロボットモノで驚きました。熱い展開でたまにコミカルなシーンもあり、メリハリのきいた完成度の高い作品になっています。主人公が熱くて芯の通った好漢で、他のキャラも総じて魅力的に書けていると思います。
    また、他の候補作の幾つかに見られた「漫画やアニメやラノベやゲームじゃあるまいし」とか「厨二病かよ!」みたいな表現がなく、茶化すことなく誠実に物語を書ききっている印象がありました。もしもこの作品に「昔のロボットアニメじゃあるまいし……」という台詞が出てきたら評価を落としていたと思います。誤解のないように言っておくと、勿論そうした表現が絶対に駄目というわけではありません。ただ、魔法や超能力、天使や悪魔、ロボットや魔王が実在するまさに「漫画やアニメやラノベやゲーム」そのものズバリな物語でそういうメタ要素を含んだことを言ってしまうと、「この話って所詮は作り物なんだよな……」と読者の感情移入を阻害する危険があることは意識して欲しいです。メタな発言があってもいい作品と、言うべきではない作品があります。この『ドウテイオー』および今回送られてきた他の応募作品は、言うべきではない作品だったと思います。メタネタ、オタクネタは使い方次第で強力な武器にもなりますが諸刃の剣です。そこを理解した上で自分なりのちゃんとした考えがあってやるなら止めませんが、「俺はちゃんとわかってるんだぜw」という作者の自己主張など要らないです。
    話が脱線しましたすみません。
    なお、絶賛しているこの『ドウテイオー』にも新人賞応募作、新人のデビュー作として致命的な欠点があって、それは完全に「シリーズものの第1巻」になっており完結していないことと、この作品が今のライトノベル市場で売れるビジョンがまったく見えないことです。「童貞」というキーワードが世界設定、人物、物語のテーマに至るまで密接に関わっており完成度は素晴らしいのですが、それゆえに修正のしようがない気がします(直したら多分つまらなくなります)。……本当にどうするんですかこれ。

    魔王女交友録
    最終選考に残った五作品のうち、もっとも読者や市場のことをちゃんと意識して書けている作品だったと思います。主人公やヒロインたちは今の読者層に人気の出そうな造形で、展開もそれなりに起伏があり適度に読者サービスもあって、先述のメタな台詞もなく、素直に読者を作品世界に没入させ気持ちよくさせてくれる、良質なハーレムラブコメになっています。ちょっと日本人には馴染みのない片仮名名のキャラが登場する都度「ピンク髪の少女」みたいな説明がされたりといった、読んでいる人に対する細やかな配慮があるのも好印象です。
    内容的にはかなりベタであり、この作品ならではの魅力に欠け、こういった新人賞の講評でよく言われるような「新人らしい勢い」や「尖った個性」などはありませんが、個人的には、「すぐにでも商品にできそうな作品(≒他のプロの作品と市場で戦える作品)」ということは、十分に評価されるべき点だと思います。
    ぜひとも作者さんには今後、自分ならではの武器を見つけ、飛躍していただきたいです。

  • 大沼 心(アニメーション監督) 講評

    大賞に1番近いのは『純潔戦記ドウテイオーvs.SE-X』で、『デッドエンドラプソディ』が文章力などは難がありますが、キャラクターだけで押すなら今風であり、『魔法使いなら味噌を喰え!』が良かったのでその3本の中から選ばれると思いました。

    大賞の『魔法使いなら味噌を喰え!』は「味噌」というアイデア、キャラクターの個性などトータル的バランスが一番とれていました。ただもっとはっちゃけていいのでは?と思います。アニメでいうとワンクールできるなというのがありました。後半の部分がテンポ感上げるために結構ダイジェスト的にテンポアップしていて、それを開けばワンクールできるかな、なんて想像しました。

    優秀賞の『純潔戦記ドウテイオーvs.SE-X』の男性キャラクターが今時にしては結構しっかりしていて、行動などがすごく惹かれるものを感じました。それに女性もみられるんじゃないかなというのがプラスでした。他作品に比べ圧倒的に主人公が立っていたのが高評価です。

    佳作の『魔王女交友録』は癖がないところが気になりました。キャラクターは立っているのですが、伏線だったり構成だったりという部分で自分は引っかかりました。主人公の行動原理など読者に納得できるものを目指してほしいです。

    もうひとつの佳作、『デッドエンドラプソディ』ですがアニメーションで考えるなら1話と13話を見せられてる気分でした。全体的に練り足りなさを感じました。キャラクターだけで押し切ろうとしてなんかどっか行っちゃったみたいな。ただ一番若さを感じたのはこの作品です。今後に期待したいです。

  • 渡辺 協(講談社ラノベ文庫編集長) 講評

    この素晴らしく不幸で幸せな世界と僕と!
    文章は分かりやすく読みやすく、リズムもある。物語も、やや類型的ではあるが全体的によくまとまっている。読者を楽しませようという意欲が感じられ、それを中心に考えて創作している姿勢は、新人の作品としては高く評価できる。
    しかし、突出した個性や意外な展開に欠けるところが評価をやや低くした。キャラクター毎に視点を変えて書く演出も、よく考えられてはいて読んでいて違和感が無いが、十分な効果は上げられなかった。

  • 編集部より

    東日本大震災で被災された方々に、お見舞い申し上げます。被災地の一日も早い復興を心より祈念いたします。この災害に伴う影響を考慮して、ラノベ文庫編集部としては最小限の対応として、募集期間を一カ月延長させて頂きました。とはいえ、これだけでは実際に被災された応募志望者の方々が、対応できる余裕は無かったと思います。申し訳ありませんでした。

    しかしながら、小説に限らず創作行為は心理的に大変な作業で、とくに当選考が募集するエンターテインメント作品の構想中においては、直接の被災者だけではなく、あらゆる応募者が少なからぬ影響を受けたであろう事が十分に考えられました。募集期間の延長が、そういった影響から僅かでも落ち着きを取り戻す一助になればと考えて、変更を行いました。
    結果的に総数1109作品という、編集部の予想を超える多数の応募を頂きました。本当にありがとうございました。
    現在、活況を呈しているライトノベルにはまだまだ拡大する勢いがあり、さらに新たな読者とその読者の面白い作品を読みたいという気持ちに応えようとする、新たな作品の創作を志す作者が存在する、という考えでラノベ文庫編集部は誕生します。
    応募作品の審査におきましては、今現在のライトノベルで最も読者から支持を受けている作品をまさに『ラノベの王道』と解釈し、またそれらの作品にみられる魅力的なキャラクター描写を中心に作品選考をいたしました。そして、さらに今後も多くの読者からの支持を受けるであろう作品を選出する様に、最大限の努力を払ったつもりです。

    最終的に多数の応募作品の中から編集部が5作品を選び、選考委員による審査をして頂きました。
    この5作品は、当選考が新人賞である事から、総合的なバランスよりはむしろ今後の可能性に期待する作品を選びました。選考委員からは、今現在、出版されているプロ作品に匹敵する水準には達していない作品もあるという指摘もありました。
    しかし、ラノベ文庫編集部としましては、先に書きましたライトノベルの可能性を信じて、多数の応募作の中から選んだ作品に最大限の敬意を表するためにも、5編の中で審査員の方々が最も優れていると評価した作品を大賞といたしました。この選考方法につきましては、第2回の際にもラノベ文庫編集部の方針とさせて頂きます。
    また、この編集部方針から、最終選考作品は可能な限りラノベ文庫での出版を目指させて頂きます。
    従って、本当の意味で当選考に残った作品につきまして最終評価を下すのは、読者の方々という事になります。真摯にして苛烈な評価をお待ちいたします。

    応募者の方々にも、是非とも次回の第2回新人賞への挑戦をよろしくお待ち申し上げます。

2011年9月30日  講談社ラノベ文庫編集部

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