第5回 講談社ラノベチャレンジカップ

講 評

  • 竹井10日(作家) 講評

    今年で選考委員はラストになりますが、長所は各作品それぞれあるものの、欠点に関しては、例年、どの作品にも同じような感想を抱くことが多かったような気がします。
    応募される皆さんは、去年の講評などは読まれないようで、自分には関係ない、とお思いかもしれませんが、意外と、どの作品にも似たような欠点があるので、人の振り見て我が振り直せ、で、今後応募される方は、是非、過去の他の人の評価を見て、自分にも当て嵌まるところがあると考えて、推敲していかれるとよいと思います。


    青春友情もの『スベテ観察記』は、余り飾らない素のスタイルのクセのない作品で、好感が持てました。
    ただ、前述の「毎年見られる欠点」をやはり抱えた作品でした。
    天才の友人を表現する為の方法が今ひとつで、天才さが際だっていないというか、友人ポジションの一人称主人公フィルターを通すことで、かえってダイレクトに天才さが伝わらなくなっていて、とても勿体ないと思いました。
    また、起承転結が弱く、起承承承のようになっていて、プロットで想定していた起伏を、実際の作品に反映できておらず、もう一工夫が足りていないかな? という気がしました。
    読者に伝えたいこと、「天才の天才さ」や「天才だけど普通なところもある」といった主軸をきっちり押さえてそこを意識して書けば、もっとよくなるのではないかと思い、その可能性を評価し、佳作といたしました。


    異能力自転車レースラブコメ『ツール・ド・ガールズ!!』は、この3年で一番の評価を与えられる作品です。
    読者が読んだ時、どう思うか、どう考えるか、をしっかり見据えた、読む人のことを考えた作品で、これは当たり前のようなのですが、3年でこれが出来ていたのはこの作品だけでした。
    出て来る女の子の個性も差別化出来ていて、キャラもしっかり立っていますが、ちょっと終盤、キャラが多くなりすぎて、さばききれていない感じがありましたので、これは今後の成長に期待です。
    欲を言うと、全体的にテンプレと呼ばれる構成が多く、要所要所だけでいいので、もう少し捻りを加えると作品の印象はまたガラリと変わると思います。
    評価的にはピカイチでしたので、大賞にするか非常に迷ったのですが、もっと出来るようになるはず! という愛の鞭の気持ちで、優秀賞に推させていただきました。
    特に実利的に何かある訳ではありませんが、選考委員3年の中では間違いなく出色の出来という褒賞的な気持ちで『竹井10日賞』をあげたいと思います。


    ギャップカップルラブコメ『超真面目くんと超不思議ちゃん 恋は戦いだ』は、読み口が軽快で、一番読みやすい作品でした。
    ただ、これも例年言っているのですが、「一人称小説がちゃんとその作品に対して適正なのかどうかを考え、何でもかんでも一人称小説にしないこと」という指摘を踏まえないという欠点を最も抱えた作品で、超真面目くんが主人公の一人称小説なのに、地の文が全く真面目ではないという、根本的な問題を抱えています。
    その根本的なツッコミどころを除けば、作品自体は読みやすいので、粗製濫造せずしっかりと1作品1作品と向き合い、表現しようとしているものに符合しているかを確認することをおざなりにしなければ、もっと良くなると思います。
    各シーンのシチュエーションテキストは評価できるところでしたので、そこを買っての佳作といたしました。


    硬派ファンタジー『墓守のバラッド』は、最近ではあまりない重厚路線で、こういうものに挑戦する熱意に拍手を送りたくなる作品でした。
    重厚であることに拘ったせいか、読みづらい部分が多く、特に序盤はもっと読みやすさ重視にしてもよいのでは? とは思いました。
    設定に設定を重ねていくタイプの作品なのですが、生きていない不要な設定が更に読みづらさを増しており、その辺りの取捨選択を上手くやっていけば、もっと良くなるように感じます。
    スタンダードな硬派さを追究するのも手ですが、もう少しオリジナリティがあると、読者の興味を引くかもとは思います。ただ、その辺りは作品として何を重視するかという点ではあるので、どれが正解、ということはないのですが。
    ともあれ、チャレンジカップという名に相応しい挑戦作だとは思いますので、その点を編集部と話し合い、佳作とさせていただきました。


    今回は、3年の選考委員担当のラストということでしたが、笑顔で推せる作品が出て来たことを嬉しく思います。
    勿論、それ以外の作品も、まだまだ作者のベストではないでしょうから、今後、選考に携われたことを誇りに思えるような、素晴らしい作品を、新人の皆さんが生み出してくれるのを楽しみにしています。
    表には出て来なかったりもしますが、どれも作者が挑戦的に作っている作品であったりして、この賞の意義はあるのだと確信出来ました。
    応募して下さった皆さん、ありがとうございました。
    惜しくも選に漏れた方や、新しくこの賞に挑戦される皆さん、次回、このチャレンジカップに力作をもって挑戦していただけるよう、お願いいたします。

  • 猪熊泰則(講談社ラノベ文庫編集長) 講評

    第5回講談社ラノベチャレンジカップには、既報の通り353作品のご応募をいただきました。みなさんのライトノベルへの熱い想いが詰まった作品を本当にたくさんお送りいただきまして、重ねて御礼申し上げます。

    第5回となる今回も、竹井10日先生をお招きしてラノベ文庫編集部とともに最終選考を行いました。

    まずは、第5回全体を振り返ってみます。応募作品全体を眺めると、大きく分けて二つの潮流があると感じました。ひとつは「作品作り=自己表現、自分が最も書きたいものを書く」という見地から執筆に入ったもの。もうひとつは「作品作り=読む相手を思い描き、その想定読者に喜んでもらう」という観点を保ちながら書き始めたもの。たいへん大まかに言えばこの二つとなるでしょうか。

    小説の創作が「まずは自分が書いて楽しいもの、自分の現在の力で書けるもの」を書くということから始まるのは当然であります。ですが《ライトノベル》という、エンターテイメント小説のある意味で究極の形であり、登場するキャラクターの魅力と存在感を最も重視するジャンルを目指すならば、「どんな人に読んでもらって、どの部分を喜んでもらえるのだろうか?」という点についての、絶え間ない考察と実践が必要となります。

    最終選考に進出した4作品について。先述の《二つの潮流》は、この4作品に関しても感じるところです。作品それぞれに程度の差こそありますが、どの作品についても、読んでもらいたいと思う読者像を想定することが、もっともっと必要です。その《仮想読者》のみなさんが作品のどの部分に惹かれ、また登場キャラクターのどの部分に楽しさや個性や可愛さを感じるのかについて、さらに検討を重ねて試行を繰り返す、作品を磨き上げるための一層の努力と研鑽を求めたいと思います。

    以上の論点を鑑み、最終選考の結論は次のようになりました。

    今回の最終選考進出4作品についてはそれぞれ見どころがあり、まだ未完成ながら、作者の今後の成長にも期待できるところが大いにあるということが言えます。一方では、書くことにあたっての、対象読者の想定や配慮の不足が感じられました。作品中においては、圧倒的な個性を持つ強力なキャラクターや、類を見ない世界観等が残念ながら欠けていると言わざるを得ない部分がありました。

    上記の観点から、まずはそれぞれの作品は賞に十分に値する、その中で最も「読者を想像して、喜んでもらう対象を想定して」書かれているとの評価となった作品を〈優秀賞〉他を〈佳作〉とすることで竹井10日先生と編集部の意見の一致をみました。

    第5回も第4回に続きまして、残念ながら大賞受賞作品はありませんでしたが、編集部としては毎回大賞作品を送り出したいという考えには全く変わりはありません。

    そして第5回受賞の4作品につきましても、可能な限りラノベ文庫からの出版を目指します。作者の方は作品を磨き上げるためのさらなる精進と覚悟を、読者の方には愛情溢れる叱咤激励を今後ともよろしくお願いいたします。

    第5回ラノベチャレンジカップをもちまして、竹井10日先生が選考委員を勇退されます。これまでお忙しい中選考の任にあたってくださり、誠にありがとうございました。

    次回第6回ラノベチャレンジカップからは、鏡貴也先生と、これまで同様にラノベ文庫編集部が選考の任にあたります。

    巨大なラノベ愛に満ち溢れたみなさんの超力作、大傑作を、心よりお待ちしております!!!!

2016年4月27日  講談社ラノベ文庫編集部

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