第1回 講談社ラノベチャレンジカップ

講 評

  • 杉井 光(小説家) 講評

    今回、五本の作品を読ませていただきまして、どれもヒロインの魅力で読者を引っぱっていこうというはっきりしたサービス精神が感じられる点は好感触でした。ただ、みなさんキャラクターこそ第一と考えているかもしれませんが、小説でまず大切なのは「雰囲気」です。これから披露する物語にこんな期待をしてくださいね、という雰囲気が最初のページから伝わってくるようにしなければいけない。どれだけ素敵な俳優を用意しても、お客さんを席につかせ、明かりを消して幕を開けなければその魅力は伝わらないわけです。

    その雰囲気作りがいちばんよくできていたのが、佳作の『赤猫のベニさん』です。いきなり猫に喋らせ、なおかつ主人公が驚かないことに猫の方が驚く、という導入は、妖怪コメディであるこのお話によくマッチしていて、すんなり作中に入っていくことができました。章ごとに新ヒロインを繰り出すサービス精神旺盛なわかりやすい構図も読みやすかったです。
    大きな破綻はなく、完成度でいえば五本の中ではいちばん上だったのですが、主人公とメインヒロインのキャラづけやシリアス展開の見せ方など、もっともっと面白くなるはずのところを煮詰めずに書いてしまっているので、全体的にパワー不足でした。せっかくの嫁たくさんのハーレムラブコメなのですから、どうやったら読んでいる方がどきどきするのか、もっと突き詰めて考えればさらに面白くなると思います。

    もうひとつの佳作の『魔法使いの実習生』も、尊大で口の悪い少女が転がり込んでくるという導入から最後まで話がわかりやすくすらすら流れていました。キャラの配置やイベントの配置なども手慣れた感じで、安心して読み進めることができましたが、自信を持ってだれかにすすめたくなるようなアピールポイントがあるか、と考えたとき、これから担当編集と一緒に知恵を絞って足していかなければならないだろうなという結論となり、将来への期待もこめて佳作としました。

    秀賞の『ごーいんぐ? ほーみんぐ!』は、友だちがつくれず帰宅部、というなじみやすい主人公の視点のおかげで上々な滑り出しでしたが、要となる“競技としての帰宅部”というせっかくの魅力的な設定が突き詰められておらず、非常にもったいないと感じました。もっとはっちゃけて、帰宅部ならではの馬鹿馬鹿しいネタを大量に盛り込めばさらに楽しめる内容になったと思います。作者の方はおそらく真剣な熱いスポーツを描きたかったのだと思いますが、物語においては「馬鹿馬鹿しさ」と「真剣さ」は同居できます。それどころかお互いを引き立て合うこともできるのです。遠慮を捨てて振り切っていただきたいです。
    また、キャラクターの魅力という点では、全選考作を通して、この作品に登場する主人公の妹が最も好評でした。ただ、どうがんばってもサブヒロインにしかなり得ないキャラ造形なのに他のヒロインたちを完全に食ってしまっています。他のキャラにもがんばってほしいところです。
    瑕疵は多かったのですが明確に売りになる部分もまた光っており、僕がもし編集者でどれか一本担当しろといわれたらこの作品を選びます。その可能性を評価し、優秀賞としました。

    大賞の『魔法少女地獄』は、残念ながら序盤の雰囲気作りにはややつまずいています。魔法少女が大量に存在して社会的に認知されているという特殊な舞台設定でありながら、その舞台を興味をそそる形で提示できていないのが惜しいところです。主人公のキャラづけも視点キャラとしてだいぶハードルが高いものになってしまっています。
    しかしこの作品は、五作の中ではいちばん「やろうとしたことをやれている」作品でした。いわば「偽物がはびこる世界に本物が憤って世直しを始める」という話なのですが、それを「魔法少女」と「魔女」でやるという発想はなかなかのものです。実際にその魔女が魔法少女を魔法少女でなくしてしまう方法がまた馬鹿馬鹿しくて笑えます。魔法少女の図鑑など小ネタも利いていて、読ませ方を心得ている作者だなと感じました。
    終盤の展開や不要な設定の多さなど課題もいくつもありますが、小説においてなによりも大切な「読み手の興味を引っぱり続けるパワー」が最も高かったこの作品を、満場一致で大賞としました。

    残念ながら今回は選外となってしまった『可愛いストーブの時間』は、時間SFに挑戦した志の高さと、なにかやってくれるんじゃないかと期待を煽る展開の連続はよかったものの、全体としては思いついた要素を整理しきれずにすべて書いてしまった感があり、まとまりに欠けていました。文章も、もう少し気を配らないと伝えたいことを十全に伝えられないと思います。

    全作を通しての印象として、ヒロインたちの魅力をアピールしようという気概はひしひしと伝わってきましたが、それに比して主人公にあまり注力されていないのがちょっと残念でした。小説においては、視点キャラはヒロインの百倍重要です。なぜなら物語のすべての要素がその視点キャラの意識でもってフィルタリングされて読み手に伝えられるからです。お話を語ってくれる人が魅力的なら、それに比例してお話そのものもお話に登場する人物もより魅力的になります。逆もまたしかりです。

    今回惜しくも最終選考まで届かなかったみなさん、次回応募してみようかと思っているみなさん、ぜひ、ヒロインに注ぐのと同量以上の愛を主人公にも注いであげてください。ぐっと作品がよくなるはずです。

    次回の選考も楽しみにしております。たくさんのご応募ありがとうございました。

  • 渡辺 協(講談社ラノベ文庫編集長) 講評

    第一回ラノベチャレンジカップに、多数の応募を頂き、ありがとうございました。
    応募作品の審査をしていて、全体として実に面白く読ませて頂き、また、ライトノベルとしての新たな試みを感じることが多く、大変に心強く思いました。

    このラノベチャレンジカップは、隆盛を呈しているライトノベルにはまだまだ未知の面白さが埋もれていて、より広範な題材の、より新鮮な内容の作品、作家を生み出せる余地が十分にあるという考えから創設したものです。毎月多数の新刊・新シリーズが生まれているライトノベルにあって、新たなレーベルである講談社ラノベ文庫の誕生と一緒に成長して、もっともっと面白い作品を提供する新人作家を見いだそうと思ったからです。
    結果的にまさにその様な可能性に満ちた内容の作品を多数応募して頂き、非常に心強く感じました。
    審査に際してはなるべくそういう挑戦的な意欲と意識を汲んで、作家的な可能性を高く評価する様に心がけました。最終的に応募作品の中から5作品を選ばせて頂き、選考委員・杉井光さんとラノベ文庫編集部による審査をいたしました。

    ただ結果としては当然なのですが、目新しいテーマ、題材、既存の作品より深く切り込んだ内容等に挑戦した作品は、新たな面白さの可能性は見せてはいても全体的な完成度としては十分とは言えないケースが出てしまいました。そうした様々な面を考慮した結果、うち4作品を入賞として、1作品は選外とさせて頂きました。
    またこれは先のラノベ文庫新人賞とも通じているのですが、ラノベ文庫編集部としましてはライトノベル作家志望者の可能性を信じ、多数の応募作の中から選んだ作品に最大限の敬意を表するためにも、選ばれた作品の中で審査員と編集部が最も優れていると評価した作品を大賞といたしました。この選考方法は、第2回ラノベチャレンジカップも同じ方針といたします。大賞・優秀賞・佳作受賞作品は可能な限りラノベ文庫での出版を目指します。
    従って、本当の意味で選考に残った作品につきまして真の評価を下すのは、読者の方々という事になります。真摯にして苛烈な評価をお願いします。

    新人の応募者の方々にも、是非とも次回の第2回ラノベチャレンジカップへの挑戦をよろしくお待ち申し上げます。

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